第22話 最近のクレーンゲームは、アームで掴まないらしい。





「……。」

「……。」

「……ほ、本当に??」

「本当!」

 


 にっこー!と笑った坊ちゃんを見て、徐々にテンションが上がってくる!!



「わ……わ、わ、わーーーーーい!!!」



 身のうちから湧き出る衝動のまま、畳の上に座ったまま跳ねる。

 


「あははは、喜び方、子ども。」

「坊ちゃんだって子どもじゃない!」

「あはは、おれ、前にさりげなくクソガキって言われたのおぼえてるからね?」

「………………やったー!本当にでかけられるの?今から?」

「あははは、うん、そうだよ?」



 何がどうなったのかは知らないが、坊ちゃんは外出が許されたらしい。勿論、見張りの者はつける……つまり私なのだが。いやいや、これって夢?都合が良すぎて怖い。



「ど、どこ行く?どこ行くの?」

「どこでもいーよ。稀子ちゃんの行きたいところで。」

「ま、まじ?」

「まじ。」 

「まじか!じゃ、じゃあね、渋谷!……は治安悪いからやめよう。坊ちゃんが連れ去られる。そして連れ去られた方が殺される。えーと、あ、原宿!は駄目だ……坊ちゃんに芸能プロダクションからのスカウトの長い列が出来てしまう……あ!じゃあ浅草にしよう!外国の人も多いし、坊ちゃんも目立たな…………いことは絶対ないけど、多分ちょこっとだけまぎれる!」

「ん、何でもいーよ。」



 坊ちゃんはずっと上機嫌だ。同じにこにこなんだけど、怖い方じゃなくて……ええと、本当に笑ってるみたい、だ。



「もう行く?もう行く?ここって都内といえど郊外だから、一時間以上かかるよね?」

「うん。もう車、待たせてあるよ。」

「よ、よし!じゃあ行こう!あ、坊ちゃん羽織り!襟巻きも、あと手袋もね!お、お財布……!私お財布とってくる!!」



 坊ちゃんに無理矢理羽織りを着させ、襟巻きを巻き、手袋を押しつけて部屋をでる。気分は走りたいけど、そんなことは出来ないので競歩だ。



 やった……!お出かけ………………お出かけだっ!!!!


 



 車内でもこのテンションは続き、藤田氏はものごく空気だった。いや、初めて藤田氏が空気であることに感謝した。べらぼうに高いテンションで坊ちゃんに喋り続けるなんて、藤田氏じゃなければ出来なかっただろう。というか、藤田氏って何者?母屋で見かけないんだけど。この黒塗りの車……(ロール●ロイスに似てるとは思うけど、そんなことはないと思う。思う!)の地縛霊だったらどうしよう。(失礼)



 そしてテンション爆上がり中の私は、気づかなかった。




 観光地


 ひとが多い


 ロールスロ●ス


 メイド服の少女(私)


 和服姿の白髪、金眼、絶世の美少年(坊ちゃん)




「………………。」

「わ………………。」



 空気を読まず、藤田氏を乗せた車が走り去ったあと。私は坊ちゃんの手を掴んで、人混みに突っ込んでいった。モーセ状態。おい!隠せ!私たちを隠してくれ!!


 しばらくモーセ状態が続いたが、そのうち、人が認識する前に通り過ぎる、というすべを身につけ、するりするりと人混みを縫うように歩いていく。やがて百貨店……デパート?のような場所に辿り着いたので、そのまま子供服売場に直行した。



「あっ、坊ちゃん、大丈夫でしたか?」

「何が?」

 


 けろり、とした顔で答えられ、何も言えなくなってしまう。……私、結構早足で歩いてたんだけど、坊ちゃんは着いてくるの苦じゃなかったんだなあ。まあ、良かった。



「じゃ、坊ちゃん、私、服持ってくるんで、ここで!ここで待っててくださいね!」

「はいはい。」



 ひらひら、と手を振られる。シャッと試着室のカーテンを閉めた私は売り場に向き直った。さて、ここから私の闘いが始まる。



「くうッッ……坊ちゃんに似合う服or坊ちゃんをどうにか目立たなくする服……ど、どっちに……!!」



 最早勝敗など、初めから決まっているようなものだった。









「はい、着たよ。」 



 軽快な音を立て、試着室のカーテンが開かれた。



「…………。」

「稀子ちゃん?」



 ?という疑問符を頭に乗せた坊ちゃんが下から見てくる。……前から思ってるんだけど、坊ちゃんってどこまでわかってるの?どこまで分かっててやってて、どっから天然入ってるの?その基準がよく分からない。分からないふりも計算なのかもしれない。



「尊い………………合掌………………。」



 涙が出そう。生きててよかった。



「大げさ。」



 ふ、と坊ちゃんが微笑んだ。口に出してたらしい。


 はい。本日のコーディネートを紹介します。完全なる私の好みです。あしからず。


 上は白のハイネックのセーター。下はベージュのパンツ。アウターは、くすみカラーが可愛い薄いグリーンのダウン。靴もパンツと同色のベージュです。うん。坊ちゃんの白髪と琥珀色の瞳にぴったりだね!いつもは落ち着いた印象の坊ちゃんも、こうなるとどこにでもいる普通の……美少年だね!!



「じゃ!次!私の服買ってきます!」

「うん、いってらっしゃい。」



 ああ、こういうとき、見た目が標準体型より美容体型寄りの人形の身体って最高だ。つまり理想のマネキン。あれが入らない、似合わないってのが基本ない。あ、これ可愛くない?っていう服が理想通りの形のまま着られる快感。しかも子供服。子供服ってめっちゃ可愛いよね??もう絶対着ることがないからこその禁断の憧れ。脳内物質がドバドバ出てる。楽しい……楽しい!


 しかし買い物に時間かけてたら一日なんて一瞬で終わるので、もうソッコーで選んだ。坊ちゃんを15分。自分を5分だ。上はベージュのニット。下は白いホットパンツに白いハイソックス。靴は差し色で赤をチョイスで、アウターは茶色のピーコート。


 はは、可愛い。

 自分の身体であって、自分の身体じゃないから思う存分自画自賛できる。私、可愛い!!!失礼な誰かさんの希望で破壊前より美少女顔なので、もうべらぼうに可愛い、似合っている。ありがとう失礼な誰か。まじ失礼だとは思うけど。


 ついでに長い髪をポニーテールに結んでみる。鏡に映った私は、どこからどうみても元気っ子。地雷系には見えない。服装って、大事なんだなあ……。



「よっし!坊ちゃん!行きましょう!あ、お会計お会計……。」

「あ、カードで。あとこの荷物預かっててくれませんか?すぐに取りに来るので。」

「……。」

「じゃ、いくよ。稀子ちゃん。」

  


 会計を済ませた坊ちゃんは、柔らかな笑顔のまま振り返る。うわっその顔で店員さんにお願いしたの?こ、この小悪魔め……。店員さんも何が起きたか分からず、私たちが着てた服の入った袋を握り締めている。

 



「何してるの?早く行こう?」


 

 差し出された坊ちゃんの手をすぐさま握り返す。



「うん!今日は楽しいこと、いっぱいしましょうね!坊ちゃん!」



 そうだ、一日はとっても短いのだ。ぼんやりしてたら終わってしまう。次がいつあるのか、そもそもあるのか分からない。そんな夢のような一日。……多分、坊ちゃんが……頑張って……作ってくれたんだよね…………?



「あっ!」

「なに?」

「今日は敬語やめますね!あと坊ちゃんのことも、要くんって呼びます!」

「……い、いいけど。」



 坊ちゃんは変な顔をしてこちらを見てきた。あは、見たことない。どんな感情?



「今日はよろしく!要くんっ!」








 精神年齢、アラサー。美少年の腕を組む。(犯罪……?)


 

 

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