第18話 平泳ぎって…下から見られたらと思うと躊躇する。






「坊ちゃん!」



 目の前にいるのが坊ちゃんだと確信を得たとき、私は思いっきり坊ちゃんを抱きしめていた。



「わ」

「坊ちゃん!ごめんなさい!!置き去りにしちゃって……!!」



 ずっと、ずっと坊ちゃんがどうしているのか、気になっていた。坊ちゃんはずっとぼんやりしていたはずなのに、よりにもよって……あんな場面で……。なんで坊ちゃんの意識がいきなりはっきりしたのかは分からないけど、酷い状況で置き去りにしてしまったことは、揺るがない事実だった。



「ううん。気にしないで?稀子ちゃんは戻ってきてくれたじゃない。俺はそれだけで嬉しいよ?」

「……。」

「本当だよ?ね、久しぶりなんだから、顔を見せて?」



 坊ちゃんの声は柔らかで、無理はしていないようだった。渋々身体を離すと、やはり坊ちゃんは微笑んでいた。



「あは、ひどい顔。そんなに俺、信用できない?ま、それもそうか。」

「え……。いや、そんなこと……。」



 ただ、困惑しているだけで。この人は、本当に……あの、坊ちゃんなのだろうか。



「稀子ちゃんが不思議に思ってることはまたおいおい話すとして……まずは契約、上書きさせてくんない?」

「上書き?」

「そ、穂苅から聞いてるでしょ?」

「聞いてるけど……あ、聞いてますけど。」



 私が言い直したのを聞いて、坊ちゃんが少し顔を顰める。ウッそんな顔も美しい……。



「……ま、いーや。それも契約しちゃえばいーんだし。」

「???」

「じゃ、ちゃっちゃとやっちゃおー!邪魔が入る前に。」

「???は、はい。」



 首周りのボタンを外して、契約印が見えるようにする。坊ちゃんはそれを見て、目を細めた。



「……じゃ、いくよ。」

「はい。」



 坊ちゃんが私の契約の紋様に手を触れ縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶? 縺ゅk縺ッ縺壹□縺」縺滓悴譚・縺ョ險俶?ばつん!!!という大きな音がして、あたりが一気に真っ暗になった。



(あ、ま、また……これって、私のバグじゃなかったの??)



 今回は、意識を保てている。何故だろうか。



(…………毎回、坊ちゃんに触れたり……今回は、触れられたりすると、こうなる…………。)



 暗闇の中、ゆったりと揺蕩っている。無重力の宇宙ってこんな感じなのだろうか?



(え、えとー……これ、どうやったら戻れるのかな……ま、まさかこのままとかじゃないよね……?)



 だんだん焦ってくる。というか普通に恐怖。



(………………ま、なるようになるか。)



 はい。早々に自力でなんとかするのは諦めました。そうなると、あとはもう楽しむくらいしかやることがないので、クロール、平泳ぎ、バタフライ……とひと通り泳いでみた。うん。進んでるか分からん。











(………………ひまだ………………)



 体感だと、一時間くらい経ったのだが……え、これ 大丈夫?坊ちゃんトラウマになったりしない??というか私、坊ちゃんの前でぶっ倒れてばっか…………な、情け無いにもほどが!!



(……自力でなんとかしよう。)



 心を入れ替えて腰を据えて考えてみることにする。うう〜ん。坊ちゃんが関係しているということは……ことは……だめだ全然分からん。



(……ん?)



 …………なんか、向こうの方。闇深くないか?え、こういう時ってお決まりだと光が差してきて、そっちに歩いていくと……とかじゃないの??闇より深い闇に近づくって発狂エンドなの?ダークファンタジー要素いらないよ?? 



(行くしかないか。)



 そんなわけで、スイスイ〜と平泳ぎをしながら近づいていった。これが一番早いので。



(うーん、見当違いだったかな?特に何もない。)

 


 しまった。これはもう本当にお手上げか……と本気で焦り始めた時……かすかに声がきこえてくる。



『あはははははは!!』

『うわっ……この状況で笑えるとかマジひくわ……』

『要様っ……失礼ですよ!!』

 


 え、最後の……私の声??



『じゃ、俺たちばっくれっから。着いてくんなよな!ブス!』

『か、要様……ぶ、ブスは酷いです……。』



 …………おい。



『ハア??オマエは俺の人形モンなんだから、黙って従ってればいーんだよ。口答えすんな。』

『……はい。』



 ………………。



『オマエってぇ、自分のアタマで考えるとか出来ねーわけ?言われたことにハイハイハイハイ……ま、人形にいってもしゃーねーか。』

『はい……すみません……でも、要様、そろそろ本当に、宗家に戻りませんと……。』

『ハイハイ、オマエは宗家に逆らえねーもんな。……はあ、まじでこいつ、どっかに置いて行きてえ……。』



 ……………………。

 ………………………………。

 ええ〜…………これ、何???今、込み上げるアツい何かと闘ってて冷静になれないんだけど……。私と……坊ちゃんの会話だよね?でもなんか、坊ちゃんが坊ちゃんじゃないというか……いや、話してる内容的にもそうだけど、何より声が……声変わりしてる?




『……お前……』

『か、なめ、さ……ま……。』



 ん?なんか今までとは旗色がちがう会話が……。



『要様、逃げ…………て………………』

『……お、まえ、なんで………………』

『……え、えへへ……なんで、でしょうか……でも、でもいやなんです。要さまが、死んじゃうの。どうしても、嫌なんです……!』

『…………馬鹿じゃねーの。そんなこと思ってるのお前だけだよ。』

『……そんな、こと……』

『……ほんと馬鹿、お前。俺は今日死ぬために生きてきたの。お前が壊れたって、その未来は変わらない。』

『…………じゃあ、せめて、お供します。』

『……は』

『要様を、一人で……逝かせません。』

『…………ばっっっかじゃねーの?心中ごっこなら他のやつとやってろ!!!』

『        』

『……………………おい。』

『        』

『………………………なんだよ、結局…………一人じゃん。ははは、うそつきだな、』






 稀子





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