第17話 雪は綺麗だけど、溶けると汚い。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
はい、出ました。出ました出ました出ましたよ!藤田氏ブリザード。乗車十分、すでに私の心は凍えそう。藤田氏って目にハイライトないよね、どこ見てるか分からなくて震えそうなんだけど。
「同僚への差し入れの話ですが。」
ふ、そろそろくる頃だと思った!!何度も驚かされる私だと思うなよ!
「はい。私は、急病で入院中、ということになっているのですよね?一応、用意したほうが良いかと……。」
ま、だれも心配とかしてないとおもうけどね!
「必要ありません。」
「…………。」
あ、はい………………。
■■■
藤田氏との会話は、あれで終了だった。あとはなんかもう話しかけてくんなって雰囲気でしたもん。心弱いんでだる絡みとかできません。
そんなこんなで山を降り、数時間。波稲に到着しました。
波稲は、増改築を繰り返して今の形になっているので、わりと普通に迷路だし、和と洋が絶妙なバランスで入り混じっている。
藤田氏とは門の前で別れた。いつ見ても立派な門だ。門だけでいくらかかっているのだろう。
「待ちなさい。」
守衛に声をかけ、門をくぐろうとした私を呼び止める声。刺々しいその女性の声に、若干怯えながら振り向く。
「穂苅さん、お久しぶりです。」
使用人頭の穂苅女史が気難しい顔を、さらに気難しそうに歪めてそこに立っていた。怖い。
「どちらに行くつもりですか?」
穂苅女史はとても170はあろうかという、女性でいうとなかなかの高身長。145センチほどの私は思い切り見下ろされる形になる。引っ詰めた髪型…細長い首…ペチュニアおばさんと呼びたくな
「黒羽さん?」
「え、えと、使用人部屋の方に……。」
即答??即答をお求めですか!?一秒も経ってないんですけども……やっぱりこの人少し苦手…………。
「藤田から聞いてないのですか?」
「えっ、いや、何も……」
「チッ」
ひえっ!?舌打ち!!??いま舌打ちしたのよね!!??って藤田氏のこと呼び捨て?私には一応敬称つけてるのに?あれあれ?もしかして藤田氏って実はあほのk
「あなたはとっくに移動になっています。」
「移動ですか??」
いや、藤田氏しっかりしろし。何も伝わってねえわ!てか移動なら「本日付で移動になりました。黒羽稀子です。こちらみなさんで……」のくだり必須やん!手土産!!社会人としての礼儀!!なにが必要ありませんじゃい!!!
「……契約を変更するので、こちらへ。」
「は、はい。」
け、契約を変更???契約って……これのこと、だよね?首元の赤い紋様をつ、と触る。え、これって変更とか出来るの??
「あと、念のため伝えておきますが。」
「は、はい。」
「業務内容の変更のため、あなたが呪具人形であることは使用人一同にも周知されました。」
ふ、ふ……藤田ァ!!!言え!!言えよ!!!
■■■
「アレが……」
「人間じゃないって……」
「……じゃない」
「…………したって話よ?」
「やだあ……」
穂苅女史に連れられ、母屋の廊下を歩き続けること数分。私は気づいた。
え、絶賛ひそひそ話の中心人物になってるんですけど……?え?陰口って聞こえない場所でやるんじゃないの?めっっっっちゃ聞こえてんですけど!?アッ私の耳の性能のせいか。くっそ!!
え?まじか。呪具人形ってわりと気持ち悪がられる存在だったのか……知らなかったわ……。
いやでもな。私も前世で呪いの人形が同僚にいたら、そりゃ気味悪いもんな。確かに。そりゃ気持ち悪いわ。しゃーないわ。わはは。
…………いや、嘘です。ちょっと泣きそう。アレって呼ぶのやめてよお。
「ここです。」
「……。」
「座って待っていなさい。」
「あ、はい!」
しまった。ちょっと感傷に浸りすぎた。
慌てて返事をしたが、穂苅女史は気にしていないようだ。良かった。
座敷に入り、畳の上に座る。穂苅女史の足音が遠ざかっていくと、部屋は静寂に包まれた。
北向きで光が入らないため、薄暗い部屋には何もない。向かい合わせの場所に、ぽつんと座布団が置いてあるだけだった。
(契約の変更……って、またアレやるのかな?こんなところに飯綱様が来るってこと??)
いや、そもそも何故契約に変更が必要なのだろうか?波稲から出るならわかるが、ただの内部移動だよ??
腕を組み、しばし考えるが、よく分からない。昔から直感型、単細胞、猪突猛進といわれてきた私だ。あまり深く考えるのは向いていない。
と、部屋の外に気配を感じて頭を下げる。次の瞬間、ス……と軽い音がして、障子が開かれた。
(あ、あれ?飯綱様じゃ、ない?)
足音が軽い。気配も、飯綱様のよく言えば重厚な、悪く言えば渾沌としている圧迫感のあるものじゃなく、冬の早朝のような透明感と吹雪のような激しさのある……あ、れ?この気配……私は、知っている…………。
「久しぶり、稀子ちゃん。」
「ふあ、へ……?」
「あは、アホヅラ。」
驚いて。あまりにも驚いて。許されていないのに、うっかり顔を上げてしまった。
きらきらと輝く黄金色の瞳が、緩く弧を描き、こちらを覗き込んでいた。新雪のように白い肌は、血色を感じられず、しかし死人のそれではない。ただ、ただ、美しい。ずっと美しいと思っていたけれど、人形のように整った顔に表情がのり、鈴の音のような声で話すと、こんなにも……………………………………
「…………尊い………合掌…………。」
「??」
あっ間違えた。めちゃくちゃきょとん顔された。そのきょとん顔も刺さる。くうっこれが母性本能ってやつか!?
改めて目の前の少年を見やる。うん、美しい。以上。ってちゃうわ!!なんか、なんかほら、もうちょいシリアス目なこと考えていた……は、ず……。
「ぼ、ぼぼぼぼぼ……坊ちゃん?!!!??」
「うん。お帰り、稀子ちゃん。」
そう言って坊ちゃんは、うっとりするほどの甘い笑顔で、美しく、微笑んだ。
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