第16話 久しぶりに出戻る職場に差し入れって何がいいのだろうか…。
「じゃあな!稀子!」
「また会えるといいな。」
「あんまり壊れるんじゃないよ?」
天気は快晴。新たな旅立ちには、もってこいの素敵な日。
「ん!みんなもね!見送り、ありがとう!」
門の前で、暁音、美哉姉、槐兄に最後の挨拶をする。あはは、みんなが見送りだなんて、どんな心境の変化があったのだろうか。
「稀子!これ!」
「え、何?」
にこ!と笑いながら暁音が差し出してきたものを受け取る。……前から思ってたけど、暁音って……犬に例えるな、柴犬かポメラニアン……。
「ん?んん?」
暁音が渡してきたのは、木彫りの……。
「……熊?」
「ち!が!う!つーの!どう見ても桜の花びらだろうがっ!」
「ええ……しかめっつらした熊かと……。」
「はああああ!?」
怒るとキャンキャン騒ぎ出すところは……小型犬ぽいけど。チワワかな?
「てか!また関係ないこと考えてるだろ!オマエわかりやすい!」
「えっ……いや、いやあ、そんなことは……。」
「いや!オマエ!戦いのときも猪突猛進型だからな、妖相手ならそれでもいーんだろーけど、少しアタマのある奴……人間相手とかだと、行動先読みされて詰むぞ!」
「………………。」
くう!暁音のくせに!的をいた発言をしやがる!
「ええと、桜?可愛い〜どうしたの?これ?」
「あからさまに話をずらしたな。」
「へへん!俺が彫ったんだ!」
「暁音も暁音でちょろいやつだなあ。」
くう、このテンポの良い会話も今日で最後か……。まーた一日も喋らない日が待ってる……今日の今、この瞬間に感謝して生きないとな。
「暁音が……へえ、ありがとう!大事にする!」
「おう!オマエへの餞別!稀子はなんな危なっかしいからなあ。オマモリだよ。」
「ふふ、ありがとう。」
え、やだ。めっちゃ嬉しいんだけど……!なんだろう、我が子の成長を喜ぶ親ってこんな感情になるのかな?すっかり心があったかい。……何だか、本当に離れ難くなってきちゃった。でも、時間は待ってくれない。
「美哉姉、元気でね。新しいところでも美哉姉ならうまくやっていけるよ。」
「ああ、稀子も。踏ん張れよ。」
ぎゅ、と美哉姉に抱きつく。美哉姉とは、本当にこれで最後かもしれない。美哉姉……どうか、どうか少しでも長く、生きてほしい。
「槐兄、槐兄は、工房に残るんだよね?」
「ああ。俺のマスターが俺を気に入っていてな。」
「じゃあ、また会えるよね。」
「そうだな。またな、稀子。」
かつん、と拳を合わせる。槐兄は、槐兄は……あれ、あんまエピソードねえな!ご、ごめんね槐兄……。
別れは惜しいが、迎えの車からの圧がつよいので、そろそろ乗ることにする。
「じゃあな!稀子!」
「頑張れよ〜!」
「またな。」
みんながを手を振ってくれている。私は車に乗った状態で、それを窓から眺めた。
「うん、またね!みんなーー!」
車が発進する。徐々に小さくなっていく……私の大切な家族たち。見えなくなるまで、手を振ってくれていた。私は、見えなくなってもしばらく後ろを眺め続けた。
――かつん。
暁音から貰ったお守りが、荷物の箱に当たった音で我に帰る。
(暁音…………いつから作ってたんだろう。)
暁音は桜、と言っていた。たしかにそう見ようと思えば、桜に見えないこともない。
(上の部分に穴が空いてる……。ここに紐を通せってことかな?)
何にせよ、気持ちが嬉しい。そういえば、贈り物をもらったのは今世で初めてだ。
(次に暁音に会う時、私も何かプレゼントしよう。)
暁音も出荷はされないと言っていたから、まだチャンスはあるはずだ。
(何にしよう?)
人へのプレゼントを考えるのは、新鮮で、懐かくて、とても楽しみだった。
■■■
「良かったのかい?」
「うん。」
稀子を見送った後、美哉は暁音に問いかけた。
「稀子には、笑ってて欲しいなって思うんだ。」
「そうか……。」
暁音はぐ、と伸びをすると、にかり、と笑顔を浮かべた。
「協力してくれてありがとな!」
「は、礼を言うことじゃあないだろ?」
「そうさ。俺たちは……人間でいうところの『きょうだい』のようなものだろう。」
「……美哉姉もさ、槐兄も……変なこと言うようになったよなあ。」
呆れたような顔をして言う暁音に、むっとした表情を返したのは槐だった。
「何を言う。お前が一番稀子の影響を受けているだろう。」
「……そっかな?」
「ああ、そうだ。」
「そっか…………。」
暁音は、ぐ、と拳に力を入れると、美哉と槐を力強く見つめた。
「俺、稀子に会えて、良かった。俺は人間じゃないけど、楽しいとか、嬉しいとか、胸の中があたたかくなる気持ち、たくさん知ることができた。……でも、それは二人にも会えてなかったら、きっと今のこの気持ちほどまでにはならなかったと思うんだ。だから、本当に、本当に……………………ありがとう。今まで、楽しかった。だから、二人は……なるべく、なるべく長く
「ああ。」
「行く末が心配な末妹もいるしな。」
「はは、なんだよそれ。どっちかっつーと、稀子が姉ちゃんみたいだったけどな。」
暁音は空を見上げた。カラッとした冬晴れの空。空気がすきとおり、爽やか、と人間なら表すのかな……と暁音は思った。
(こんな日に、終わるのは……悪くないかな。)
――ああ。でも、できるのならば…………。
「もう少しだけ、生きていたかったなあ……。」
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