第7話 お仕着せがメイド服なのは誰の趣味?






 少年が歩いていく先を見て、私は悟った。



――オワタ…………。私の良心終了のお知らせ……。



 ほぼノー情報のままお屋敷に放り込まれた私だったが、車の中で藤田氏に言われたことがあったのだ。それが、多分この少年のことだ。




■■■




「――以上で注意事項は終わりですが、何か質問は?」

「ありません。」



 いや、本当はすごくあるけどね?でもね?それを全部言ってたらしつこすぎて藤田氏激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームまっしぐらだと思うの。だから稀子、聞き分けの良い子になって我慢するわ!


 


「…………」

「…………」




 いや、まあそうだよね?話すことなくなったら黙るよね?でもさあ、私コミュ力高め()に設定された機体だから沈黙がきついねん……。だがしかし、ここで藤田氏に「ねえねえそんなことよりっ⭐︎波稲のお屋敷の近くの美味しいスイーツのお店教えてよぅ⭐︎」とか言ったらぶっ壊されそうだ。うん、藤田氏はやる女だわ。三白眼気味だし。(失礼)



「言い忘れていましたが、」





 びっっっっっっっっ…………くりした。叫びそうになるのをなんとか抑え込んだ2nd。


 え?何?藤田氏ってドジっ子さんなの?ものすごく間が悪い子さんなの?それともあれ?私がぼんやりしすぎなの?HSP過ぎるの……???



「波稲のお屋敷で、気をつけて欲しい場所があります。要さまのお部屋です。」


 要さま……?

 ええと、お屋敷に住んでいらっしゃるのは、当主の飯綱様、奥方の夕子様、ご子息の司様、それから飯綱様の弟の嵐雪様とその婚約者の綾子様、大奥様の美耶子様……だったはず。


「要様は離れで暮らしておられます。今年で七つになられます。」



 えっ、なんかワケアリ……?愛人の子とかそっち系ですか……??やだなあどろどろしてるの苦手なんだけど。




「要様は大事な生贄なので、もし勝手に出歩いているところを見かけたら、離れに連れ戻してください。」





…………ぶっっっっっっとんでんな!!!え!?何???生贄って何???ちょっと待って聞き返してもいい??もしかして私の聞き間違いかもしれないから!!


 しかしながら内蔵された高性能の機器が言うておる。聞き間違いじゃあないと。



「承知しました。」



 また厄介なことを聞いてしまった。良心がきりきりと悲鳴を上げる幻聴が聞こえる。


――チクショウ……何もかも忘れて、ハワイに行きたい。いや、もういっそのこと、ハワイが来い。






■■■





 はい。回想終了です。



 そんなわけで、多分前をよたよたと歩いているこの少年が『要様』だ。白髪に金色の目、という外見的特徴も合致してるし。世の中広いと言っても、ここは日本。こんな派手な色彩の人がごろごろいられても困る。



 ……正直、会いたくなかった。詳しくは知らないけど、生贄…………って絶対いい意味じゃないじゃん?波稲家、怖すぎる。絶対後ろ暗いことやってるじゃん。反社会組織とかと繋がってそう……。反社ならまだしも、国ぐるみだったらどうしよう。あり得そうで怖い。人一人くらい簡単に消されそう…………。私が生身だったら確実に発狂してるわ………。





 しかしまあ、私は人形なわけで。


 主従契約で縛られてる呪いの人形なわけで。


 つまり、命令には従うしかないわけなのである。





「要様……要様、ですよね?わたくし、稀子と申します。お部屋までご一緒させていただきます。」

「………………」

「……失礼します、ね。」



 そう言って、要様を抱き抱える。



(うわ、か……軽い……。細い。薄い……。)



 気をつけないと潰してしまいそう、と思うくらいだ。



(七歳……って小学一年生だったよね?小さすぎじゃないかな??)



 何なら遠目から見ただけだが、五歳の司様より小さい気がする。



(髪の毛……艶がないし、あちこち小さな傷ばっかりだし…………虐待、だよね、これ。)



 もはやそれどころじゃないのだろうけど、学校とか…………絶対通ってないだろうし。



 ア……痛い……。

 良心がギリギリと締め上げられていくのを感じる。



「要様。痛くはないですか?」

「…………」

「……要様?」



 この反応の無さも気になる。


 琥珀色にきらきらと輝く瞳は、この世の物とは思えぬほどの美しさだが、何も写してはいない。


 うう……san値がぁ…san値が削られるぅ……。こんな幼い子を屋敷の離れに監禁して生贄とか、この家狂ってるよ……!!!



「…………」

「………要様、お部屋に着いたら、傷の手当てをしましょうね。」

「……」

 


 やがて、要様のお部屋と思われる、離れの建物が見えてきた。



「……要様、着きましたよ?」

「……」

「お部屋に入りますね。」



 失礼します、と建物に声をかけるが、おそらく誰もいない。立派な建物だけれど、あまり管理はされていない印象がある。



 玄関、廊下、居間、台所、風呂場……とひと通りの設備は整っていた。

 


(要様が普段過ごされているお部屋はどこだろう……?)


 

 廊下をてくてくと歩いていると、障子が開け放たれたままの部屋があることに気づき、足を踏み入れた。


 そこは、寝乱れた寝具が一組と、使われた形跡のない文机が一つだけある寂しい部屋だった。



「ここが要様のお部屋でしょうか……?」

「…………」


 

 庭への窓は全開に開け放たれ、そこから、心地よい風が入り込んでくる。



「要様、手拭いをとってきますので、少しお待ちください。」

「…………」



 大丈夫かな?またどっか行っちゃったりしないかな……?と不安になりつつ、部屋を後にする。



 しかし目当ての手縫いと桶と水、その他もろもろを持って戻ってきた時、要様は寸分違わぬ姿勢でそこにいた。



「足と手、汚れをとりますね。それからお手当も。」



 紅葉のような幼い手を取り、汚れを拭っていく。それから足の裏、他にも汚れがついているところ……とひと通り綺麗にしたあとは、傷がついているところを手当していく。


 それにしても細い。細過ぎる……きちんと食事は取っているのだろうか?それにこの反応の無さ……もしかして、発達に問題があるのだろうか?まさかそれが故に生贄だとか言われてるんじゃないだろうな…………。



「……はあ……。」



 ここにきていい事があった日など、一日もなかったけれど。


 悪いことがあった日ランキングだけは順調に更新だな……。


 これからどうしようか…………。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る