第5話 人を呪わば穴二つって言うけど私の分のお墓あります?
次の日、予定通り宗家からの迎えがきて、この世界で初めて車というものに乗った。
ちなみに見送りとかは無い。暁音たちにはそもそもそんな選択肢さえ用意されてはないのだ。というか本機たちも考えもしないだろう。くうっ!絶対一年点検で里帰りしてやる……!!
工房は山奥深くにあるので、山を降りるのにはそれなりに時間がかかった。やがて市街地に入り、車窓から眺める景色は、知ったものと大差ないように思える。異世界というか、並行世界なのかもしれない。パラレルワールドというやつ……?
「…………」
「…………」
身を乗り出して外の世界を観察したいところだが、もう一人、車内に向き合うように座っている人がいるので、そうも行かない。
淡い栗色の髪をひっつめて後ろに束ねている女性で、名前は藤田さんと言うらしい。
「…………」
「…………」
…………藤田氏、さっきから微動だにしない。大丈夫?息してる?瞬きしてる?心配になってくる。二十代後半くらいだろうか。切長の目に、薄茶色の瞳。外国にルーツのある人なのだろうか?染めてるわけでも、カラコンでも無いだろうし……。
「これから、宗家での職務について説明します。」
びっっっっっっっっ…………くりした。叫びそうになるのをなんとか抑え込んだ。危なかった。本当に危なかった。完全に気を抜いていた。
くう、藤田氏……タイミング悪すぎだってばよ!
「はい。」
しかしどんなに心の中が大騒ぎでも決して顔には出しません。ふふ、私も呪具人形ムーブが板についてきているぞ!
「あなたには、内部調査の役割を担っていただきます。」
「はい。」
「対象は宗家に使える使用人全てです。」
「はい。」
「あなたは、そのためにコミュニケーションスキルを高く調整された機体だと聞きました。多くの使用人と接し、問題点があれば速やかに報告すること。表向きの職務は炊事場担当ということになっています。以上ですが、何か質問は?」
「私が人形だと知っている方たちを教えてください。」
「当主飯綱様と私のみです。」
「分かりました。」
ええ……。使用人さんたちの粗探しをするってこと?なんか気が進まないなあ。嫌われそうじゃん……。
というかコミュニケーションスキル高めって笑
え、私の陽キャの記憶皆無なんですけど笑
やばくない?笑
「分かっていると思いますが、波家宗家には敵が多いのです。疑わしきは罰す、その場での処分もかまいません。」
必死に陽キャの練習をしていた私はそれを聞いて、一気に血の気が引いた。
え、つまり……。
スパイがいたら、その場で殺せってこと……?
それって…………人間だよね…………?
「はい。」
声は震えてはいなかった。私がそうしたく無いと思ったから、この機械の体は私の意志に従順に従ってくれる。
…………そりゃね。
お屋敷務めで楽できる〜なんて、本当に思ってはいなかったけど……。心のどこかで期待していた自分もいて。
この三ヶ月、何度も何度も何度も繰り返し思ったことだが、なんでこんなことになっちゃったんだろうなあ……。
■■■
はい、回想終わり!
現状確認、ただいま誓約の儀の真っ最中。
ばたばたと人間の皆さんが倒れていくので、私も苦しんでいる演技をしているところです。
上座に座る当主、飯綱様から湧き上がる霊力は、赤い糸のように首に巻き付き、独特な紋様を刻んでいく。その間に、朗々と咏い上げられる誓約の言葉は
ひとつ、宗家に背きまじき事
ふたつ、屋敷を脱っするを許さず
……と続いていき、
ここのつ、宗家に仇なせば…それすなわち、ヒトにあらず。輪廻に還れず。異形になりはて、未来永劫、常世を彷徨うと心得よ。
で終わった。
げえ…そんなことまでここで働いてる人誓わされてるの!?…ちょっと…引くんですけど…。
「さあ、誓約の言葉を」
身体の芯まで、凍えそうな、冷めた目で見据えられる。
ぎりぎり、と締め付けるような霊力に、言葉を口にするのも難しい。……いや、実際には難しくはないのだが、気持ち的な面で…。
「し、紫藤潮……宗家に永遠の忠誠をお誓い致します。」
「藤島憂…………そ、宗家に永遠の忠誠をお誓いいたします。」
「赤根紅緒…宗家に…永遠の忠誠を、お誓い致します…。」
地面にうずくまった少女たちが、次々と誓約の言葉を述べる。
すると、飯綱様の霊力が首元に集まり、円環状に光輝いた。数瞬後、光は収束し、赤い紋様となり首元に留まった。
……これってやっぱり呪詛だよね?
誓約を破ったら、首が………。
こんなの人間にやってるなんて、正気の沙汰とは思えない……。
その点、私はコアが無事なら首が弾け飛ぼうがボディが爆砕しようが次の日には復活だからね!安心だね!
「黒羽稀子、宗家に永遠の忠誠をお誓い致します。」
首の周りにぐるりと赤い紋様が刻まれた。痛くは無いが、若干の圧迫感を感じる。
その後、当主様は用は済んだとばかりに去っていった。後に残ったのは死屍累々の少年少女のみ。
「うう……」
「……アア……」
「アウウ……」
「……」
この中にもスパイがいるのだろうか……?
そしてもし、この中の誰かを殺せなんて言われて、私は……………………。
うん!!さくっとすっぱり殺せそう!!!もうやだこの身体!!!
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