第48話 森田

 飛鳥がシューケットに戻るとキラが青い顔をして部屋の前に立っていた。


「どうした?青い顔して。」

「飛鳥…森田さん事故で亡くなったって…。」

「冗談言うなよ。昨日会ったばっかりなのに。」

「飛鳥…。」キラが泣いている。

「ふざけんな!嘘だ!嘘だ…。」

「飛鳥、急いで家に帰れ。」


 遺体は飛鳥が空として連れて来られたあの屋敷にあると言われ、すぐに届を出し向かった。家に着くと尋常じゃない数の警備員がいっぱいいて、近づくと身元をチェックされているところにモンナが現れ「彼は大丈夫入れてあげて」と言ってくれたのでそのまま入ることが出来た。


「モンナさん。この状況は?」

「入れば分かるわ。」

 大きな一番奥の部屋へ行くように言われた。扉を開けるとローソクと花がいっぱい立てられた真ん中に棺があった。そしてすぐ横にスーツを着た恰幅の良い紳士が立っていた。

 近づくと紳士はこちらを向いた…副大統領だ。警備が厳しかったのはこのせいか。

「顔を見てやってくれ。」

 そう言うと部屋を出て行った。


 恐る恐る棺を覗き込んだ。眠っているような森田がいる。綺麗で死んだようには見えない。今にも起き上がりそうだ。


「ねえ、森田起きろよ。まだ俺1人じゃ何も出来ないじゃないか。なんで死んだんだよ。」揺すってみたが何も反応がない。

「なんだよ!まだ結婚もしてないんだろ!ふざけんなよ。」

 飛鳥は棺にすがり付き泣き叫んでいた。

 親から離されずっと一緒にいてくれたのは森田だけだった。歳の離れた兄貴だと思って接していた。こんな事になるならずっとそばにいれば良かった。


 しばらくして「飛鳥様、入ってもよろしいですか?」

 ドアの外で声がするモンナさんの声だった。


 涙をぬぐい飛鳥は立ち上がり、「どうぞ」と答えた。


「ごめんなさい。副大統領が話があるみたいで。ちょっといいかしら。」


 うなずくとモンナの後ろをついて行った。通されたのは小さな部屋で副大統領がいるには違和感のある部屋だった。 

          

「お別れの最中に悪いね。時間がなくてね。」

「いえ。」

「この部屋は完璧な防音で何者もこの部屋で話した事を聞く事は出来ない。だから遠慮しないで話を聞かせてくれ。いいかい?」

「はい。」

「ありがとう。まずは森田の話をしてもいいかい。」

「はい」飛鳥はうなずいた。


「森田は私の秘書だったんだ。将来的には私の後を継いでもらうつもりでいてね、だから勉強のために色々と仕事をやらせていたんだ。彼はもともとDevilsの人間で亜子君と同じように濡れ衣を着せられ、あそこに入れられた。」


「え、そうなんですか。濡れ衣って、どんな?」


「両親が大統領暗殺未遂を起こしたとね。実際は彼の両親ではない。。私が張本人だ。彼の両親は私の代わりに罪を被ったのだ。」


「なぜ?そんな事を?」


「私が大統領を失脚させるのに必要だと言ってね。必ずやり遂げてくださいと言って身を差し出したんだ。恭弥を私に託してな。」


 森田さんは恭弥って言うんだ…こんなに長く一緒に生活していたのに初めて名前を知った。


「大統領は今無敵だ。誰も逆らうものがいないからね。君たちが見つけ出したデータには大統領を失脚させる事ができるファイルが入っている。それを恭弥は私に届けようとしたが途中で襲われ殺された。そして持っていたUSBは奪われた。」


「確かコピーをしてモンナさんに渡したと聞いていましたが。」


「モンナにそれを確認したら、表向きは自分で持っている事にしてあるが、自分が持つより亜子さんが持っていた方が良いと判断してこっそりと渡したそうだ。」


「えっでは今データは…。」


「Devilsだ。」


 亜子の周りで変な事が起きているのはそのせいか…。


「俺、明日急いで戻ります。」

 立ち上がると腕を掴まれ、

「いいかい、この先は誰も信じるな。そして会話は盗聴されていると思いなさい。そしてデータを必ずこちらに持って来て欲しい。」

「わかりました。」


 一晩中話しかけ森田との最後の日を過ごし急いでDevilsへ向かった。

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