第44話 決行

 日差しが入る白が基調の綺麗な部屋での朝食だった。


 窓からは海が見える。すごいな自家用クルーズ船。

 飛鳥は先に席に座って待っていた。朝食は3人なのにバイキング形式で種類も沢山だ。朝からこんなに食べきれないと思うけど…と思っていたら亜子がものすごい勢いで食べていた。給仕の人も唖然として、追加で作りましょうかと言われたがそれは結構ですと断った。少し残ったがほとんど亜子が平らげてくれたので無駄にならなくて良かった。俺は普通の家庭で育ったからお金持ちのやる事一つ一つがもったい無くて仕方がない。

 

 食事が終わると森田さんが話し始めた。


「皆さん朝食は終わりましたね。これからの事をお話しいたします。船を降りてからまず皆様で遊びに行って下さい。場所は遊園地など人がいっぱいいる所をお勧めいたします。」


「遊びに行くのですか?データを探しには行かないんですか?」


「昼間は姿が見られやすいので動きません。ただ遊びに帰って来たと相手を油断させなければいけません。亜子様の腕にはマイクロチップが埋め込まれているのを皆さんは知っていましたか?」


「え、そうなのか?」


「はい、あの事件以来、亜子様はずっと監視されています。今回外に出たことも上にはバレているでしょう。それなのに連れ戻しに来ないのは何故だと思いますか?」


「もしかして亜子がデータを探すのを待っているのですか?」


「キラ様その通りです。亜子様が家に帰ればデータがどこにあるのか探ることが出来ます。そしてデータを奪った後で亜子様を消すつもりでしょう。」


「じゃあどうすれば…。」


「亜子様のマイクロチップは手に埋め込まれています。それは簡単に注射器で取れる物です。皆さんが遊びから帰って来たら、まずマイクロチップ を外します。


 しばらく亜子様はマイクロチップを持ったまま家の中を普段通りに動いていただきます。そして夜8時になったらメイドが部屋に行きますので、服を取り替え、メイドにチップを渡し、亜子様は部屋を出てモンナの部屋に行ってください。


 モンナの部屋は亜子様の部屋の向かい側です。すべてチェックはしておりますが、念のため家の中も油断できないと思っておいてください。そこで着替えていただき宅配業者の車に乗り込み亜子様の家へ向かう手筈になっております。後を付けられている事を考え宅配の車を途中で乗り換えますので覚えておいてください。」


 何か自分が思っている以上に大変なことにかかわってしまったのかもしれない。こんな大がかりなことになるなんて…体が少し震えた。


 夜のことを考えるとそんな気にもなれなかったが、昼間は遊びに行きなさいと言われたので、3人で近くの遊園地に向かった。私服のSPが何人かついて来ていると言う事だったが周りを見渡しても全然わからない。さすがだ。


 亜子がジェットコースターに乗りたいと言うので、飛鳥も俺も苦手だったが仕方なく乗ることになった。あのフワッとする感じがものすごく不快で嫌だった。

 亜子は1人で一番前に乗り、飛鳥と俺は2列目に乗った。亜子にはまだ話せる事を内緒にするために声を出さないようにと伝えてあった。亜子は後ろを振り返り、2人を見てニコニコしていた。ふと横を見ると飛鳥の顔色が…青ざめている。


「ハハ、いつも怖い物知らずの飛鳥でも怖い物あるんだな。」


「うるせえ。こう言うのは嫌いなんだよ。」


「俺は嫌だけど別に平気だから、飛鳥のそんな姿が見れて逆に楽しいよ。」


「ふざけんなお前。」


 そう言っている間にどんどんと上に上がって行く。亜子は両手を離して落ちるのを待っている。一番上まで上がると一気に下に落ちて行く。

「うわぁ!」飛鳥が叫んだ。

 俺はその姿を見て心から楽しかった。その後ずっと飛鳥が機嫌が悪かったのは言うまでもない。亜子はこの遊園地の変なキャラクターの人形を飛鳥に買ってもらい、嬉しそうに家に帰った。


 予定通り飛鳥と俺は用意された黒ずくめの服に身を包みモンナの部屋で出発するのを待っていた。亜子がメイドの格好でモンナの部屋に入って来た。猫目の亜子はまるでツンデレのメイドさんみたいでまたまた可愛かった。コスプレ状態だ。


 亜子は隣のベッドルームに入り俺たちと同じ黒ずくめの服で現れた。3人で段ボールに1人ずつ入り運び出されるのを待っていた。

 用意が整うと宅配業者の格好をした森田とモンナが現れ段ボールをカートに載せて運び出した。


 2tトラックに荷物を積み込み森田とモンナは運転席に座り、屋敷から外へ走り出した。その間3人は段ボールから抜け出し、用意されていた大きなぬいぐるみを箱に入れ、ガムテープでしっかりと封をし、箱の影に隠れた。


 車はしばらく走ると、車通りの多いコンビニの一番奥の薄暗い場所に停車した。そのさらに奥には黒のワゴンが止まっている。

 森田はドアを開け外に出ると煙草を吸いだした。

 モンナがスイッチを押すとワゴン側のトラックの荷台とワゴン車の扉も同時に開きキラ達は素早くワゴンへ乗り込んだ。

 森田が運転席に戻るとモンナはコンビニのトイレに向かった。モンナが戻ると森田がトイレに向かった。二人が運転席に戻るとワゴン車を残し、トラックは走り出した。その後をシルバーのセダンが後をついて行った。

 

 しばらくして森田とモンナがコンビニから出てくるとワゴン車に乗り込み走り出した。

 いつまでバレないで時間を稼げるか………。

 

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