第39話 声を出してごらん

 亜子は環境が変わり体重も戻り表情も明るくなっていた。


 Devilsにある皇帝の部屋に亜子が訪ねてきた。いつもボロボロの服で訓練をしていたのに制服を着て現れた亜子は思った以上に可愛らしかった。


「亜子、制服似合うね。」


 ニコッと笑うとさらに可愛らしかった。


 この頃から亜子が男といるとイライラするようになっていた。生活は改善させてあげる事ができたが、学校の決まりで将来、スパイやハッカー、スナイパーになる訓練は無くすことが出来なかった。亜子を普通の生活に戻してあげたいが…。


 シューケットの皇帝の部屋で飛鳥とアゲハが話をしていた。

 

「ねえ飛鳥、最近キラはずっとDevilsに行ってしまって授業が終わるとすぐいなくなるんだけど、何やってるの?」


「あっちは改善しなくちゃいけない事だらけだから仕方がないさ。落ち着けばこっちにもいるようになるよ。」


「私も手伝いに行きたい!」


「それは危険だからやめておいた方がいい。」


「つまんないの!私、飛鳥とペアみたいになってるじゃない。キラと一緒にやりたいのに!」


「悪かったね。俺で。」


 キラは皇帝の部屋に亜子を呼び出し話をしていた。


「亜子は生まれた時から声が出ないのか?」


『違う。小さい時は話せた。』


 最近はDevilsの皇帝の部屋でパソコンを使い話すようになっていた。隣に座ってピアノを一緒に弾いているかのようにキーボードを叩いていた。髪の毛からはいい匂いがする。前は本人には言えないがちょっと臭かった…皇帝になってからシャンプーが無いことを知り、各部屋に置くようにした。


『お母さんが目の前で殺されてショックを受けてから。』


「じゃあ何かのきっかけで話せるようになるかも知れないね。声を出す努力してみようよ。喋ることが出来なくても声は出るんだろ?」


『うん。』


「じゃあ、キラって言えなくてもいいから言ってごらん?その音になっていなくてもいいから、言っているつもりで音を出してごらん。」


 黙り込み下を向き、絞り出すような声で

「ぐ、ギ…あ、が」


「凄いよ。亜子!声出てるよ。その内、声出るようになるよ!」


 頷いてニコッと笑った。メチャメチャ可愛い!


「可愛いな亜子。」


 急に亜子は立ち上がり走って出て行ってしまった。


「あれ?俺なんかいけないこと言った?」


 駆け出し扉を閉めると亜子はドキドキが止まらなくなっていた。


 キラはいつも照れる言葉を簡単に言う。顔が多分真っ赤だろう。キラは別の世界の人…好きになってはいけない。でもキラの喜ぶ顔は見たい…亜子はその日から部屋で声を出す練習を始めた。


 次の試験まであと1ヶ月と言うところで生徒達署名活動を起こし、実技試験無しでキラを皇帝のままにして欲しいと先生に提出した。先生はキラが筆記試験で1位を取ればそのまま皇帝を続けていいと言ってくれたので、珍しく勉強を毎日している。このまま皇帝を続けないとまた亜子が悪い環境にさらされることになるのでそれは避けたかった。皇帝の部屋はありがたい…誰も邪魔をしない。


 気がつともう午前2時になっていた。そろそろ寝ないとと考えていたら部屋をノックする音が聞こえた。


「誰?」


「俺。」


「オレオレ詐欺かよ。飛鳥だろ入れよ。」


 扉を開け飛鳥が部屋着のまま入ってきた。

「珍しいなそんな格好で。どうした?」


 飛鳥はソファーに腰を下ろした。眠ってしまいそうなぐらい居心地のいい柔らかい革のソファーだ。


「このソファー小春川が使っていたヤツだろ。贅沢だな。」


「金が有り余っているだろうけど、もったいないよな。」


 しばらく沈黙が続く…飛鳥は何か言いたげだが中々話さないので、こちらから振ってみた。


「飛鳥、話あんだろ。何?」


「ああ。」


 飛鳥はキラが出した麦茶を飲み干し話し始めた。

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