第26話 心配

 扉を開け、電気をつけた。


 誰もいなく寂しかった。着替えようとしてロッカーを開けると中に白いビニール袋が入っていた。中にはおにぎりとお菓子と手紙が入っていた。


『亜子、大丈夫か?この中をあまり動き回れないから様子を見に行けないけど、もし何か辛い事があったら言いなよ。聞くぐらいは出来るからさ。もちろん力になれそうな事があればするから。具合が悪いって聞いたから一応薬も入れとくから。お大事に。』


 袋の中には頭痛薬、胃腸薬、下痢止め、風邪薬といろいろな種類の薬が入っていた。亜子はおむすびを食べていると何故か涙が出てきた。普通の子はどんな生活をしているのだろう。キラとも仲良くお喋りしておしゃれな服着てデートするのだろうか。


 今まで悲しいと思ったこともなかったがキラに会い、いろいろな事が悲しく思えてきた。

 今まで忘れていたが急に空君を思い出した。家に泊まりに来たせいで記憶を失ったと聞いていた。あの子は今どうしているのだろう…私の事覚えていないんだろうな。 

 でもその方が幸せかも知れない。人が殺される姿なんて見てはいけないものだ。あれからずっと悪夢に悩まされている。どうか空君は幸せでいます様に。亜子はお腹いっぱいになりその場で寝てしまった。


 見回り当番の教官は面倒だなと思いながら練習場に来た。

 中をのぞくと亜子という女が寝ていた。まだ子供っぽいが将来美人になりそうな顔つきをしていたのでよく覚えていた。


 確かこいつ口が聞けなかったよな。お菓子が置いてある。禁止されているはずなのになぜ持っているんだ?誰かにもらったのか?誰かパトロンみたいな奴がいるのだろうか?襟がはだけて肌が露出されている。


「まだ胸は小さいがまあいいか」そう言うと亜子のシャツの中に手を入れた。その瞬間、腕を掴まれナイフが首元に当てられた。

「おっと待てよ。この先ここから出たところで、こき使われて大した恋愛もしないままどうせ死ぬことになるんだろ。だったら俺と楽しんだ方がいいんじゃないか?


 お前、そのお菓子は何だ?誰からもらった?俺が調べたらすぐ分かるぞ。そいつを罰しないとなぁ」と笑みを浮かべている。

 キラの事がバレてしまうのだろうか?そうするとキラは罰を受けるの?亜子は迷ったがナイフを下ろし、睨みつけた。

「そんな怖い顔すんなよ。かわいい顔が台無しだろ。俺の言う事聞けば何も言わねえよ。」

 近づいてくる…怖い。

「お前強いんだよな…腕と足縛らせろ。」

 亜子は首を横に振った。

「良いのか?バラすぞ。お前は牢屋行きだし、差し入れした奴はこの学園から追放になるかもな。」

 キラがいなくなる?嫌だ!絶対に。

 亜子は諦めて両手を差し出した。


 キラは亜子が心配になり、飛鳥にも言わずに1人でDevilsに来ていた。もう毎回ここを通っているので顔パスになっていた。ただ時間が遅かったので質問はされたが忘れ物をしたと言うとすんなりと通してくれた。


 亜子の部屋は知らないのでとりあえず練習場に置いてきたお菓子が持っていっているか確認をしたかった。


 扉の前まで来ると、中で人の声がした。あれ?こんな時間に練習している人がいるのか?見つかっては面倒なのでそっと扉を開き中を除いた。

 廊下の方が薄暗いので気付かれてはいない。男が誰かに馬乗りになっている。目を凝らしてよく見ると下にいるのは…亜子だ!両手、両足をを縛られ体をバタバタさせて必死でもがいている。


「おい何をしてる!」

 思いっきり男を突き飛ばした。亜子がしがみ付く。服が乱れて肌が露出している… 

 顔をつけている腕に涙が伝う。怒りがこみ上げてきた。キラは自分の服を亜子に着せた。


「お前は誰だ?」


 お前だと!偉そうに。亜子を襲っていたくせに何言ってんだこいつ!


「そんな事はどうでもいいだろう。襲っていただろ。泣いているじゃないか!」


「この女は口も聞けない。犯罪者の娘だ。どうせここを出たところですぐ死ぬんだ。こんな可愛い顔して男を知らないんじゃ可哀想だろ。だから俺が相手をしてやろうと思っただけだ。何が悪い。」


「お前最低な奴だな。よく見たらあんた生徒じゃないよな。教官か?教官がこんな事していいのかよ。」


「俺は皇帝お気に入りの教官だ。こっちにいるいい女を紹介しているからな。こんな事は気にしないだろう。」


 皇帝もこいつもどんだけ最低な奴なんだ。今日は運よく制服を着ていない。そんな簡単にバレないだろう。俺を怒らせたこいつが悪い。


「さあ、さっさと…」


 無言のまま横から蹴りを入れた。不意を突かれうずくまった瞬間かかと落としを食らわせた。いとも簡単に気絶しやがった。馬鹿め。


「亜子大丈夫か?怪我してないか?」


 亜子がうなずく。手と足の綱を解いた。

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