第25話 おなか痛い

 亜子は毎日、キラが来るのを楽しみにしていた。


 キラは話せなくても自然でいてくれるので楽だった。どんなに厳しくしても全然へこたれずどんどん上達して今では自分と五分五分になっている。

 下手すると負けるかも知れない。多分シューケットの中で飛鳥が1番、キラが2番と言う順位になるだろう。でも飛鳥を追い抜くのは時間の問題に見えた。それぐらいキラは飲み込みが早かった。飛鳥も素っ気無い中に優しさがあったが、キラの様に自然で分かりやすく優しくされたのは初めてだったので、凄くキラのことが好きだった。会えない日はキラの事をずっと考えていた。


 今日はキラが来る日だ。


 なぜかキラが来る事は内緒にしていなければならない。まあ仲の良い人もいないし話すことも出来ないので誰かに言う事もないけど。

 この試合が終わったらキラに会える。心はウキウキしていたがちょっと調子が良くなかった。昼間からずっとお腹が痛くて、これはもしかして生理かも知れない。教官は男だらけなのでこの事を言えない。


 医務室に行きたかったが教官は途中で抜けるのを絶対に許してくれない人だった。痛いままやるしかない。こんな時に限ってボクシングだった。女の子同士だが試合となると相手も食事がかかっているので本気でかかってくる。いつもなら余裕で勝てるが今日は無理だ。無理を承知で1ラウンド終わった時点で頼みに行った。面倒なのは言葉で伝えられない事だ。


 メモ用紙を持って教官の所へ行った。

「何だ亜子急用か?」

『お腹が痛くて試合をするのが無理です。』

「お前本当の敵にあった時にお腹が痛いなんて通用しないだろ。」

 そんな事は重々承知だ。でも今は訓練なのだからと思っても話が通じないから無理か…。

「サボりたいだけだろ。さっさとリングに立て!」

 まあ無理だとわかっていたから諦めて痛いお腹を抑えてリングへ上がった。


 痛い痛い。顔が痛さで歪む。


 相手も容赦してくれない。痛いお腹を攻めてくる。今日はご飯抜きだなって思いながら亜子は倒れて意識を失った。


「教官、亜子が倒れました。」

「何だよ。無理なら無理と言えばよかったのに。」

 教官は亜子に近づき見下ろしてズボンが赤く染まっているのを見て

「汚えな。誰か病院に連れて行け」と言うと亜子をリングから足で突き落とした。


 目が覚めると病院だった。焦って起き上がり時計を見るともう夜だった。

「目が覚めた?」

 カーテンの向こうから声がした。カーテンが開き大貫先生が心配そうに見ていた。Devilsで唯一の女の先生だった。噂では元はDevilsの生徒だったと聞いた。

 うなずき、立ち上がった。ちょっとフラフラするけど大丈夫だった。

「明日も動くの厳しかったら私の所に来なさいね。」


 差し出された薬を持って部屋を出た。厳しくても授業に出ないと後でもっと辛い思いをする事になる。薬をもらったし明日は動けるだろう。服を見るとズボンに血がついていた。生理って子供を産むのに必要なものだと聞いた事がある。でも私にとって生理って何なんだろう?私がこの先子供を産むことなんてないのに。今日はキラに会えなかった。せっかく会える日だったのに…練習場に着替えが置いてあったはず、血がついたまま歩いて誰かに見られるのも嫌だったので着替えてから部屋に行こう…ご飯は終わってるよね。

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