第17話 戻らない記憶

 飛鳥として生活を始めてから、この家がとんでもなくお金持ちだと言う事が分かった。記憶が戻るまでの間とは言え、勉強もスポーツも格闘技も英才教育を受けさせられた。どんなにやっても勉強はやっぱり苦手だった。学校に行きたいと頼んだが、飛鳥としてなり切るまでは行くことが出来ないと言われちょっとガッカリした。でも高校からは行かせてもらえるはずなのでそれを楽しみにしていた。


 記憶はまだ戻らない。


 飛鳥のお母さんは大分具合が良くなり、外を散歩したり食事もとれるようになり、大分回復している。高校の寮に入ると言った時に駄々をこねたが、なるべく帰ってくるようにすると伝えると渋々承知した。本当に優しくていい人で騙していると思うと胸が痛かった。

 俺が入る高校、シューケット学園はお金持ちが集まる学校だ。俺の目的は行方不明になっている亜子に会う事そして記憶を取り戻し、安全に家に帰る事。この学校は成績によって待遇が変わって行く。何をやるにしても上に行かなくては思い通りに行動は出来ない。必ずトップにならなければいけない。


 シューケットに入学して3ヶ月、テストで4位をとった。1位になるのには頭が足りなかった。皇帝は小春川共生、奴を抜くにはどうしたらいいのだろう。精一杯やったのにどうしても届かない。一応それでも4位だったので皇帝の2番手クルスというチームには入れた。普通の学校で言う生徒会みたいなものだ。そこに入ってから隣のDevilsも皇帝が支配下にあり、クルスも頻繁に出入り出来る事を知った。


 一歩、亜子に近づいた。これでやっと会えるかも知れない。新しいクルスメンバーでDevilsを見学に行った。勝手にイメージしていたDevilsの雰囲気は暗くて恐ろしいと思っていたが、行き来する通路は白で明るく、食堂なども清潔だった。


 聞いた所によるとDevilsの中で本物の危険人物がいる場所は薄暗く鉄格子に囲まれていて鎖で繋がれていると噂になっている。そこの場所だけは政府が管理していると聞いた。

 クルスで受け持つところは話し合いで決める。将来のスパイや暗殺者など繋がっておかなければいけない。ただし友達になってはいけない。あくまでも上下関係を保ち従わせることが決まりだ。普通に女の子もいる。シューケットとは違い、まず着飾っている女の子はいない。ほとんどが全身黒ずくめ、鋭い目つきをした子達ばかりだ。皆、実技を習得し、世界に出て行くのだ。

 見学している時に1人小柄で華奢なロングヘアの女の子がいた。どうみてもみんなより年下に見える。みんなが声を出して戦っている時にその子だけは無言だった。気になったのでそこにいた教官に聞いてみると、口が聞けないと言うことだった。成績が良く運動神経抜群でもう外に出ても通用すると聞いた。

「あの子の名前は?」

「亜子と言います。」

 見つけた!


 早速亜子がいる部隊の受け持ちにしてもらった。亜子は頭もいいのでサイバーテロも含むダイヤモンド部隊のエリートの中にいた。俺の知能の方が多分追いつけないだろう。時間が出来るとなるべく亜子の部隊に顔を出した。


 はじめは全員に警戒をされていたが、毎日のように通っているうちに少しずつ打ち解けていった。いつものように顔を出し、本来はしてはいけないのだが今回はおむすびの差し入れも用意した。食事の量が少ないのかあっという間に平らげてしまった。俺が上に立ったらシステムを変えてあげないとな。

 亜子は相変わらず表情がない。この前メンバー内で内輪揉めがあったが興味がなさそうにただコンピューターの画面を見ていた。感情がないのだろうか。亜子を見ても記憶は一向に戻る気配はない。話す事ができれば何か変わるかも知れないが、下手に近寄るのもおかしいので今は亜子が打ち解けてくれるのを待つ事にした。亜子は少しも近寄ってこない…どうしたら良いだろう。


 しばらくこの生活が続いていた。相変わらず1位になれずあの女ったらしのアホ皇帝のままだ。頑張っても3位まで自分の学力のなさに落ち込んだ。


 そしてテストでとんでもない点数を叩き出した奴が転校して来ると聞いた。噂を聞き父親に世話役にしてくれるように頼んだ。頭がいいので皇帝に目をつけられるかと思ったが、格闘技はそうでもないと噂になりそんなに敵対視はされなかったのが救いだった。でもキラは元々の運動神経が良く、これは伸びると感じた。彼はまっすぐ育ったのか明るく元気で眩しい存在だった。キラなら皇帝になれるかも知れない。


 しばらくキラを見ていたが、彼は男女問わず好かれる事が分かった。特にアゲハはいつもキラを見ている。多分好きなんだろう。キラはその事に気がついていない…恋愛に関しては鈍感らしい。この前も手作りのお菓子を女子からもらっていたが、自分に気があるとかと言う考えはないようだ。アゲハはすごい目で見ていたが。


 そしてキラはあの森で亜子に出会った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る