第16話 空と飛鳥
早速、森田は恵蘭グループにアポをとることにした。詳しく話を聞きたいとすぐに連絡がきた。森田は恵蘭グループの会長の家に来たのは初めてだった。
「大豪邸だな。」センスの良い和風の家だった。離れへ通され、しばらく待つと会長と息子が現れた。
「森田君だね。」
「はい。副大統領伊藤継晶の秘書でございます。」
「話は伊藤君から聞いている。空君は本当に大丈夫のなのかね。」
「はい。本人も了承しておりますので問題はないかと。」
「狙われていると言うのは本当かね。」
「はい。そうです。そこでお願いがございます。まだ成長過程ですので顔は何もしなくても髪型や眼鏡などで分からなくなると思います。ただあまり表には出したくありません。高校はシューケット高等学院に進学させてください。あとこちらにお預けしても、学園に入学させる前まで私を家庭教師の1人として一緒に住まわせていただきたい。」
「シューケットは全寮制だったな。権力者の子供が通うと噂の学園か。まあそこなら顔を見られる事はないと思うが…華がなんと言うか。せっかく息子が戻って来たと思っても寮に入ってしまったら悲しむのではないか。」
「特例で2ヶ月に1度は帰らせてもらえるように手はずはとります。入学まであと3年あります。その頃には奥様も落ち着くのではないでしょうか。それにこの写真を見てください。」
空の写真を2人に見せた。
「これは驚いた!飛鳥に似ている。」
「そうなんです。これは神様からのプレゼントかもしれません。」
「よし分かった。この話を進めてくれ。」
亜子ちゃんに会って記憶を取り戻す事が俺が俺に戻れる近道だと思い、恵蘭グループの孫、恵蘭飛鳥になる事に決めた。恵蘭グループとは世界で事業を展開している。基本はホテル経営で、ロボットや医療、ロケット開発など色々な分野でも活躍している会社だ。国内では間違いなくトップワンだ。
本物の飛鳥は地下に冷凍保存されているらしい。自分だったらそんな所にずっと入れられるのは嫌だと思う。早くお墓に入れてあげればいいのに…飛鳥が可哀想でならなかった。
森田さんと共に屋敷に着くと書斎に通された。暫くすると白髪の老紳士と写真で見た飛鳥の父親が現れた。
「これはこれは…飛鳥の服を着ると本物のようだな。」
「そうですね。空君の方が少し目がつり上がっていますが、とても似ていいます。」
「今、パニックになっている華も正気を取り戻せるかもしれない。」
「あの、初めまして八矢 空です。」
「空君。来てくれて嬉しいよ。今日から君は飛鳥になるが大丈夫か?
緊張するだろうが本当の自分の家だと思って生活をしてくれ。遠慮はいらない。召使達は秘密を守れる執事長以外は全て入れ替えたから飛鳥として疑う者はいないから安心してくれ。しばらく海外に行っていたことになっているから大丈夫だろう。」
「あの、飛鳥君のお母さんは気が付きませんか?」
「飛鳥が亡くなってからおかしくなってしまってね。実際の所会ってみないと分からないんだ。」
「もし、気がついたとしてももう後へは戻れないからね。そのまま飛鳥としてこの家に入って欲しい。」
「記憶が戻るまでですが、よろしくお願いします。」
「ああ、そうだね。よろしく。さあ華に会って来てくれ。」
記憶が戻っても返すつもりは無かったがそれを言ってしまうと、そもそもこの家に来るのを嫌がってしまうかも知れなかったので今はそう返事を返した。
森田に促され、飛鳥はこれからお母さんと呼ぶ人の所へ向かった。
「さあ今日からあなたが飛鳥様です。私の事も森田さんでは無く森田と呼び捨てにして下さい。」
「え、呼び捨てにするの?なんか変だよ。」
「今日から私のご主人様になるわけですから、さん付けは逆に変です。慣れていただくしかありません。」
「わ、わかったよ。」
書斎を出て廊下の奥に白い綺麗な扉があった。扉をノックすると中から扉が開かれた。明るい日差しが顔に当たった。中に入るとベッドに今にも消えてしまいそうなぐらい透き通った白い肌の綺麗な女の人が寝ていた。この人がお母さん?ずいぶん若い気がするけど。
「飛鳥様ですね。お帰りなさいませ。お待ちしておりました。奥様、奥様、飛鳥様がお帰りになられましたよ。」
ベッドの上にいる飛鳥のお母さんが目を開けた。
「またそんな事言ってまた騙すのね。いつも帰ってくるって言って帰ってこなじゃない。」
「本当ですよ。ほらあちらに。」
その人は俺をじっと見た。そしてポロポロと涙を流し始めた。
「あ、す、か…。」
「うん。お母さん。帰って来たよ」リハーサルは何度も森田さんとやった。疑われた時の言い訳も考えていたがそれは心配がなさそうだ。色々試した事が役に立ちスムーズに答える事が出来た。ベットに近づき腰を下ろした。細い腕が俺を包み込んだ。ずっと泣いている。本当に会いたかったんだな。お母さん元気かな…自分の母親を思い出した。久しぶりに抱きしめられて、優しいぬくもりを思い出し少し幸せな気分になった。
「さあさあ奥様お体に触ります。飛鳥様は逃げませんからお薬を飲んで横になって下さい。」
「わかったわ。飛鳥、休んだら元気になるからまたお話ししましょう。」
「うん。後でまたくるね。」
ずっと握っていた手をやっと離してくれた。とりあえず部屋に戻る事にした。
「ねえ、どうして俺が偽物だって気が付かないのかな?」
「空と飛鳥様はよく似ておられますのと多分帰って来て欲しい気持ちが強いので信じ込んだのではないと思われます。」
「そうか。じゃあ飛鳥になりきらないとね。」
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