第15話 別人になる提案

 家に着くと森田さんに全ての事を教えて欲しいと頼んだ。

「良いですか。多分辛い思いをしますよ」スーツに着替えた森田さんはいつも通りに戻っていた。

「何も知らないままはもっと辛いです。」

 森田さんはフゥっと息を吐き静かに話し始めた。


「空さんには亜子さんと言う1歳下の幼なじみがいます。ご両親も仲が良く家族ぐるみの付き合いで一緒に出かけたり、旅行に行く中だったと聞いております。亜子さんの両親は政治家で今の副大統領の側近…側近分かりますか?一緒に働いていたのです。今、空さんがいるこの家は副大統領のものですが、それが分からないように違う人の名前で購入したものです。


 事件は空さんが亜子さんの家に泊まりに行った時の事です。夜中にいきなり暴漢に襲われ、旦那様が暴漢と争っている間に奥様は空さんと亜子さんを物入れに隠して鍵をかけたそうです。その時に奥様は空さんにデータを渡したと聞いております。」

「そんな凄いことがあったのに全然覚えていないです。亜子ちゃんと両親は今はどうしているのですか?」

「連絡を受けて駆けつけましたが、間に合わずご両親は殺されました。空さん亜子さんは、2人とも用具入れの中で気絶した状態で見つかりました。空さんは記憶を無くし、亜子さんは声が話せなくなりました。」

「ひどい…。」

「空さんにデータを渡していたと言うのはハッキリとした確信はないのです。でも母親が空さんに何かを渡していたのを見たと言っていたらしいです。空さんの記憶が戻ればその何かがわかるはずです。」

「思い出したいですけど、なにも今は思い出せません。」

「たぶんあまりにもショックで脳が記憶をシャットアウトしたんでしょうね。」

「亜子ちゃんは今どこにいるのですか?」

「病院から連れ去られずっと行方がわかりませんでした。でも最近情報が入り、Devilsという学園にいるということがわかりました。」

「デビルス?」

「罪のあるものが入学し、殺し屋やスパイ、ハッカーなどを育てる裏の学校です。」

「まだ小さいのに?そんな所に?」

「普通は中学生からなのですが、亜子さんは特例で入ったそうです。そこに入れられたと言うことは、亜子さんを今は殺すつもりはないみたいですね。」

「俺もその学園に入れば亜子ちゃんに会えるんだよね。」

「それはダメです。犯罪者でもないし、空さんの身が危ないです。」

「俺、亜子ちゃんに会って記憶を取り戻して、助けたいんだ。」

「一つ方法があります。空さんが別人になる事です。」


「別人?」


「一年前に交通事故で子供を亡くされた夫婦がいらっしゃいます。奥様はそのせいで半狂乱になり子供の名前「飛鳥、飛鳥」と呼んで泣いていて、彼はまだ奥様に手放してもらえず冷凍にして家にいる状態です。いつか目が覚めると言って死亡届も出していない。半分狂ったような状態でどうにもならないと。旦那様の方が困り果て養子を探しています。奥様はもう子供が産めない体だそうです。


 一度ご夫婦に会って見ませんか?養子では無く飛鳥として生きれば君が空だってことはわからない。本来死亡届を出さないのは罪に問われますが、その人は莫大な資産を持つ、恵蘭グループの会長の息子夫婦だから今まで隠せて来ました。年齢も空さんと同じですから、問題はないでしょう。」

「でももし、そうしたら俺は空では無くなってしまうんだよね。その人たちは俺が子供になって大丈夫なのかな?」

「空は行方不明。飛鳥は死亡届を出していないので君は2組の親を持つ事になるが、多分向こうは受け入れるしかない。養子をとるより都合がいいのは目に見えています。外国で事故に遭いましたから顔も知られていません。奥様は悲しんでおられますが、旦那様と会長様は相続を気にしておられるようです。」

「難しい事はよく分からないけど、その人のうちの子になれば亜子ちゃんに会えるんだね。」

「はい。その通りです。」

「いつか、空に戻れるよね?」

「そうですね。空さん次第だと思います」そう言ったものの、どうなるかは森田でも分からなかった。でもこのまま記憶がないまま逃げ回り続けているよりかは良いのではないかと思った。

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