第13話 空と亜子
その日、亜子は大好きな空がお泊まりに来るのでワクワクしていた。
亜子は優しい空が大好きだった。お父さんとお母さんはいつも忙しくてあまり家にいなかったが、空の家に行くといっぱい遊べるし、美味しいものがいっぱい食べられて自分の家よりも空の家の方に住みたいといつも思っていた。
今日は珍しくママが空を泊まりにこさせていいと言ってくれていたので、空に何を見せてあげよう、何して遊ぼう、空の好きなものママに作ってもらおうと頭の中がいっぱいだった。
ゲームをしたりピアノを弾いたり寝る時間になっても全然目がパッチリ開いていた。明日お休みなんだからいいじゃないとダダをこねたが、ママに言われて仕方なく2人共ベッドに入った。
「2人とも起きて!」
肩を揺らされた。
「どうしたのママ?」
「今は話している時間がないからお願いだから言う事を聞いて。」
亜子は母親に抱えられ、空は手を引かれ部屋から廊下た。
階段の下に降りようとしたが言い争うような声が聞こえた為、母親は廊下にある用具入れのクローゼットに2人を入れ、
「お願い、絶対声を出さないで。空、亜子を抱えていて」と言うと扉を閉めてダイヤル式の鍵をかけ、そして亜子の部屋へ飛び込んでいった。何か訳が分からず怖くて泣きそうになる亜子を「大丈夫だから我慢しろ」と小さな声でなだめた。空も怖かったが亜子の母親の必死な姿を敏感にとらえ、静かにしていないと何か恐ろしいことがおきるのではないかと感じた。
母親は部屋から出てくるとクローゼットの中に何か小さなプラスチックの物を隙間から入れた。
「空、お願い。これを副大統領に渡して」と言うとゆっくりと廊下を走り出した。
ちょうど亜子の部屋の前まで行ったときに階段の下から黒ずくめの男が3人現れ「娘はどこだ?」と話しかけた。亜子をギュッと抱きしめ口を押さえて声を出さないようにした。
「ここにはいない。もう外に逃したから。追っても無駄よ。」
「何!」
黒ずくめの男は亜子の部屋をのぞくと
「窓が開いています!」
「お前探しに行け!」
1人が亜子の部屋へ入り窓から探しに行ったようだ。
「どこへ逃がした?」
「さあ、どこかしら。あなた達が探しているものはここにはないわよ。でも私に何かあったら見つからないかもしれないわよ。」
「それはどうかな。お前のも旦那と一緒に消えろ」と言うと、亜子の母親に近づきナイフをお腹に突き刺した。亜子の母親は呻き声を上げ、その場に崩れ落ちた。亜子の口を必死で押さえ込んでいた手に涙が流れて来た。何回もお腹を刺されている姿を見て亜子と空は気を失った。
空が目が覚ますと白い天井が見えた。
体が動かない…少し顔を動かすと母親が手を握りベッドにうつぶせになっているのがみえた。
「おかあ…さ…ん」
「そ、空!」
声を聞いた瞬間、お母さんは泣き崩れた。
部屋にお医者さんや看護師さんが入って来て色々と調べられた。異常はないと言う事で「一週間様子を見て退院しましょう」と言われた。
目が覚めたその次の日に知らないおじさんが病室に来て俺に質問をして来た。
「私はお母さんの知り合いで君に質問があるんだけど、少しいいかな?」
「はい。」
「あの事件の日の話を聞きたいんだけど覚えているかな?」
「あの事件?」
「君が亜子ちゃんの家に泊まりに行った日の事だよ。ショックだろうけど出来る限り覚えていたら教えて欲しい、どうかな?」
「あ…こ?そんな名前知らない。俺どこかに泊まりに行ったの?」
母親とその男の人は顔を見合わせて固まっていた。え、俺何かおかしなこと言った?
「空。最近で覚えている事は何?」
「最近?運動会かな。」
「最近遊んだ子は?」
「康太と涼介。」
「他に誰か覚えていない?」
よく考えてみたが、うっすら何かボヤけて見える気がするがはっきりとした顔が見えない。
「うん。いないと思う。」
「空ちょっと待っていてね。」
そう言うとお母さんとおじさんは部屋を出て行った。
「八矢さん、空君はショックで記憶を一部失っている可能性があります。落ち着いたらカウンセリングを受けてください。」
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