第9話 チョコを知らない
キラが門の前に行くと亜子がすぐに現れ、両手を出した。
「何だよ。子供かよ」リュックの中身を柵の隙間から渡した。
「ご飯もまともに食べられないのか?」
『負けるとご飯を減らされる。』
「はあ!酷えな。それも皇帝が決めたのか?」
『たぶん』
亜子が右手だけでお菓子を開けようとしている。左手は?
「どうした?何で左手使わないんだ?」
『けがした。』
「怪我?見せてみろよ。」
シャツの腕をまくると血が出ている。
「何だよこれ。酷い怪我じゃ無いか!手当は?」
『皇帝の部屋に来いって言われて怖いから行かなかったからしてもらえなかった。』
「部屋に来いって何で?保健室とか無いのか?」
『病院がある。行くのに皇帝の許可がいる。』
「いちいち面倒だな。何で部屋にいかなかったんだ?」
『前に行った時に、髪とか触られてちょっと気持ちが悪かった。』
あいつこっちでもセクハラしてんのか。
「まだここにいれるのか?30分ぐらい待てるか?」
亜子はうなずいた。
「ちょっと待ってろ。」
薬を取りに校舎まで走り出した。校舎内にあるドラッグストアで消毒液と包帯を買うとまた急いで戻った。亜子は柵に寄りかかり、座ったまま寝ていた。そっと手を触ると…急に亜子が起き上がり、腕を掴まれナイフが首元にあてられた。驚いて固まった。亜子がごめんというポーズをした。
「いいよ。大丈夫。腕かして。」
柵越しに手を出した。服をめくり上げて水で傷口を洗い流した。白くて細い腕に複数回切られた後がある。こんな細い腕が傷だらけになって…消毒液を垂らすと一瞬体がビクッとした痛いよな。声も出せないし健気すぎてかわいそうになった。包帯を巻くと薬も全部渡した。
「亜子、年齢はいくつだ?お前は何歳からここにいるんだ?チョコを知らないって事は大分前からだよな。入ったきっかけは何だ?」
『ここには13歳から。いまは15歳。』
「13歳!そんな小さい時から?」
『両親が犯罪者で、償いをしなくちゃいけない』
「両親が?じゃあ亜子は何もしていないのか?」
「うん」とうなずいた。
ますますこの制度が気に入らない。亜子の人生はこんな所で人の殺し方覚えて、何かに怯えてずっと生きていくのか?恋愛は?結婚は?許せない。
「亜子、もう少し我慢しろ。俺がどうにかする。いいな絶対に死ぬな。自分を大切にしろ。あと俺に会った事は誰にも言うな。」
『どうにかする?キラが皇帝になるの?』
「皇帝になれるか自信はないけど、そうならないと亜子を救えないならなるよ。」
亜子が笑顔になった。初めて見る表情に胸が熱くなった。俺が制度を変えてやる。
亜子とキラのやりとりを木の影に隠れて飛鳥が見ていた。
何ヶ月かかっても見れなかった亜子の笑顔をいとも簡単にキラが引き出した事に驚いた。
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