第6話 皇帝の見回り

 気の向いた時に皇帝は学校を見回る。皇帝が通る時には必ず皆が廊下に並び頭を下げなければならない。そんなくだらない決まりを皇帝のご機嫌取りのために黒が決めた。皇帝は大満足だが、生徒は大迷惑だろう。でも部活の予算とか減らされてしまうのでみんな何も言わない。この学校は特別枠として色々な大会に出場している。一生懸命に部活に励んでいる生徒も多い。その辺はまだ高校生だ。皇帝にさえ逆らわなければ何も被害はない。


 皇帝は授業中に動き出した。黒と赤が一緒だ。放送がかかるので皆、廊下に並んだ。クラス委員が全員いるか毎回チェックする。飛鳥の所にクラス委員が冷や汗をかいて寄ってきた。

「飛鳥、まずい。キラがいない。」

「キラが?どこへ行った?」

「わかんないよ。なんかフラッと行ったまま帰ってきていないんだ。」

「まずいな。転校生は挨拶するのが決まりだ。」

 前方から皇帝が歩いて来るのが見えた。その内挨拶に行かせようと思っていたのに…今日機嫌がよければ良いのだが。アゲハがいるから大丈夫か。アゲハは自分が皇帝に好かれているのを知っているので最近少し態度がデカイ。お願いだからヘソを曲げさせないでくれ。

 あと15メートルぐらいの位置まで皇帝が来た時に、スッと横にキラが現れた。

「キラ、良かった。どこに行ってたんだ」小声で話しかける。

「普通にトイレ行っただけだよ。」

「いないから焦ったよ。皇帝に挨拶しないと目をつけられるから。来たら紹介するから挨拶してくれ。」

「わかったよ。」

 少し先にアゲハがいた。皇帝はアゲハの所に止まり話しかけていた。


「アゲハ相変わらず可愛いな。早くクルスに来いよ。次は特別枠で幹部に入れてやる。今だって来たかったら来いよ。」

「責任の多い部署はすごく頭の良い人の方がいいと思うので、私は向かないと思います。。」

「幹部になったら、卒業後すぐに主役で映画が待ってるぞ。それがお前の望みだろ。」

「はい。でも力をかりず実力を付けて頑張ります」とフフっと笑った。

「俺に簡単になびかない所がまた良いんだよな。でも次はそばに置くぞ。」

 皇帝はアゲハの肩を引き寄せて頬にキスをした。


 なんだよあいつ。じじくさ!見た目はデカくてガタイがいい。なんかプロレスラーみたいだ。話している言葉が今時じゃない。いつの時代の人間なんだよ。本当に高校3年か?アゲハは笑っているけど多分嫌なのだろう。だから俺を呼んだんだろうな。


 皇帝が目の前に歩いて来た。飛鳥が声を掛ける。

「皇帝、こちらにいるのが転校生の神城キラです。」

「はじめまして。よろしくお願いします。」

「随分と背が高いな。いい男だし。成績によっては幹部候補になれるからまあ頑張れ。」

 偉そうだな。鼻につく奴だ。いい男って、おいおい表現力がおかしいよ…笑いそうになったが我慢して「はい」と短く返事をした。

 そのまま皇帝は通り過ぎて行った。

「キラ、良かった。もしいなかったら目を付けられてたぞ。」

「いないだけでかよ。まあまだあまり目立ちたくないから良かったよ。」


 休み時間になりアゲハがキラの机に駆け寄ってきた。

「キラ!」

「やっと話せるな。久しぶりだなアゲハ。」

「うん。元気だった?」

「まあな。」

「手紙の件はまた今度ゆっくり。」

 アゲハが話しかけて来たので接しやすくなったのか、何人か人が集まって来た。

「アゲハの知り合い?」

「そうだよ。幼なじみ。」

「途中で入って来てクラスがSなんて凄く頭がいいんだね。私、岩満 薫。アゲハと同じ部屋なんだ。よろしく。」

 話をしてみると意外にみんな普通だ。変なのは幹部連中だけか。

「今日、学校終わったらみんなで外にご飯を食べに行こうよ。」

「いいね。」


 外に出ると辺りが少し暗くなっている。ドームの外と同じにしているのだろうか。まあ確かにそうしないと感覚がおかしくなるよな。みんなでピザの食べ放題に行った。食べ放題とかあっても人なんかそんな来ないだろうに…本当になんて贅沢なんだ。食べてみると、宅配ピザが一番美味しいと思っていたが遥かに上を行くピザだった。生地モチモチ、チーズたっぷりなんだこの美味しさは!こんなの毎日食べていたらおかしくなる。学校での話を聞く限り、これと言ってそんなに普通の学校と変わらない。ただ家の上下関係はあっていじめや暴力は日常茶飯事らしい。本来ならそれをクルスが取り締まるらしいが、女狂いのアホ皇帝のせいで全然良くならない事を知った。アホだと思いながらも成績、実戦で1位なんだよな。嘘じゃないのか?

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