Lv15.世界樹の剣
剣から放射されてくる電波雷力を、立ち上がったエタルが既に持っていた雷鉱石に刻まれていた光学魔法陣の動力源に変換利用して広域に展開させた。
「魔法陣が……展開できた、……っァがッ」
自転する光学魔法陣は展開できたがエタルの腕は絞られた雑巾のように重傷を負ったままだった。もう二度と元には戻らないと宣告された三回転も
「魔法陣が展開できても、やっぱり腕が……」
既に恐怖を帯びるほどあり得ない角度まで曲がっている自分の手の平の向き。肘部に触ると痛み、捻じられた血管によってそろそろ血流が止まり指の先から紫色に変色してきてもおかしくないほどの傷を負ってからの時間は経過している。
(腕を切断しなくちゃいけなくなるのか……?)
このまま血の巡りが滞れば酸素の行き届かない指の先から皮膚が壊死して崩れ落ちていくだろう。それを回避する手段を考えて、危うくシュレディにまた助けを求めそうになっていた。
(ダメだっ。自分で考えろ)
慌てて首を振って邪念を払ったエタルが、重症の肘を押さえながら瞑想を始めた。
(魔法陣は使える。データは今までのが使えるはずだ。ならオレが攻撃を受ける前の腕の
魔法行使に必要な光学魔法陣はその特性上、雷子情報によって雷力を誘導して魔法陣本体を構築する。そして魔法陣が雷子情報によって形成されるなら当然、他の情報も魔法陣の内部に別ストレージとして
(負傷する前のオレの腕の生体データは残ってる。後はこれをどうやって治療に回す?)
(だいたい治療魔法は気体の風属性と液体の水属性の物質を、肉体となる固体の地属性の物質に凝固させるまで相転移を繰り返さなければいけない。それが治療魔法の基本であり根幹なのにっ、そんなのは一朝一夕で簡単に出来ることじゃないっ)
エタルが口を噛みしめていると、雷属性の魔力を放っている剣から感じる熱によって腕の痛みが引いていくのを感じた。
(痛みが……引いて? もしかして治せるのか?)
エタルが光学魔法陣の一つを開くと、自分の今の捻じれた腕の状態と負傷前の腕の状態とが情報的に比較されている。あとはこれを現実的に実行すればいいだけだった。
(できるのか? そんな事……?)
今の重傷を負った腕を以前の無傷だった腕に戻す。それをこの剣から伝わる魔力で実現する事ができるのか? エタルは完全に疑っていたが、今はやるべきことがそれしかない。だからまずは実行あるのみだった。
エタルは自分の重傷の腕の肩口に情報魔法陣を発生させると、それを乱暴に指の先まで一度に解析させて走らせようとする。それで魔法陣が通った患部は強制的に元通りの負傷前の状態に戻せるようだった。
(イチかバチか……。いけッ)
「
エタルが唱えると肩に展開していた魔法陣が瞬時に腕を駆け下りて捻じれた肘から指先まで突き抜けると激しい電撃の痺れを感じて、さっきまでの痛みが完全に引いた。
「ぅぐァッ、……ぁッ、あ、戻った……のか?」
魔法陣が駆け抜けていた痛みが終わると、直ぐにいつも通りの無傷の腕に戻ったことを確認して自分の手を何回も握り直す。
「本当に……戻った?」
どういう
「樹属性の魔法かな……? それならキミの腕が戻ったことも納得できるよね」
「樹属性?」
子猫のシュレディが話しかけてきたのでエタルも振り向く。初めて聞く属性だ。少なくともエタルは聞いた事がない。
「樹属性は地属性に似てるけど、根本的にある部分が違う。それを今のキミに説明している暇はないから。ほら、さっさと動けるかい?」
子猫に急かされると、エタルは慌てて無傷な体で地面に突き刺さった剣を鞘ごと引き抜いた。
「それは多分、樹属性の武器だ。剣の形をしてるから武器なんだろうね。材質が樹なんだ。それはただの木刀剣だよ」
「これが……木製……?」
とてもではないが今の子猫の発言は信じられない。少なくともエタルの目には自分が持つ剣の材質は磨かれた金属製に見えている。
「ボクはその剣の材質に一つだけ心当たりがある。世界樹の幹」
「世界樹? これがっ?」
子猫シュレディの言葉に、エタルは驚いた。
「さすがに世界樹のことは知ってるんだ?」
「知ってるも何も世界樹ユグドラシルはこの世界の果てにあると云われているD10級以上の幻獣などが跋扈する未開の土地だと聞いたことがある。そんなところの素材剣だなんて……」
「未開の地っていうのは大袈裟だね。普通の人間では足を踏み入れられないだけで、上位の
「街の行き来? 世界樹には町があるのかッ?」
エタルの驚きには、シュレディは厳しい視線で応えた。
「いまの君はそれどころじゃないだろう」
シュレディが睨んでくる視線で、エタルは気付く。
「追われてるんじゃないの? 確かきみの……」
シュレディが言い終わらないうちに、エタルは魔法陣を全開にさせて一瞬で姿を消すと追わなければならない目標物を一目散に目指した。
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