Lv14.開放剣
「もう終わりかい? ……エタル」
今まで、どこに居たのかも分からない子猫のシュレディが現われて、倒れたエタルに問いかけてくる。
「腕を……やられた」
「それがどうした?」
「もう剣が振れない」
「剣? 剣っていうのはこれのことかな?」
瓦礫の道の真ん中でシュレディが視線を真横に向けると、その隣では剣が鞘に収まったままの状態で地面に突き刺さっていた。
「まだ鞘から抜けてなかったんだね」
「他人事のように言うなよ」
「他人事だよ。ボクには使えない」
「オレにも使えなくなった」
「なんで?」
「なんでって……もう腕が……」
「キミはこの剣のことを知ってるの?」
「いいや。知らない。お前は?」
「ボクも知らない。だから不思議なんだ。この剣のことを何も知らないクセに。なんで、もう使えないって決めつけるのかな?」
「……だって、剣は腕が無事じゃないと使いようが……」
「……魔法は、腕が無くても使えるクセに?」
シュレディの言葉に、エタルの目は大きく開いた。
「なんで腕が無くても魔法は使えるのに、剣は腕が動かせないと使えないって勝手に決めこんじゃうわけ?」
「魔法が使える剣は特殊だ」
それを知らない
「じゃあ、この剣を見つけたのは
投げかけられた言葉で、エタルの目がさらに大きく開く。
(魔法が……使える?)
希望が芽生え始めたエタルが無事なほうの手を剣に向かって伸ばした。しかし、反応は返ってこない。
「やっぱり、ダメじゃないか……」
「そこでまた諦めるワケだ」
「他にどうしろってんだッ」
「まだ使える物はないの?」
子猫が訊ねてきたのでエタルは声だけで魔法陣を発生させた。現在の魔力炉である各種鉱石の状態を診る。
「火も水も風も出力可能域が0.01まで落ちてる。完全に破壊された状態だ。雷は……奇跡の10パーセントかよ。操作系ばかりに使ってたのが良かったのかもな」
「その10パーセントで出来ることは?」
「お前も諦めが悪いな。シュレディ」
「ボクはキミのように大ケガなんてしてないからね。大ケガをしてたらキミと同じさ」
「励まされてるのか、オレは。まぁ、いいや。雷鉱石の今のこの出力で出来ることといえば対象物への雷波解析か……、
エタルの気づきに、子猫は笑う。エタルもその猫の笑みの意味に気付いて、雷鉱石の電波反応を光学魔法陣によって急造的に組み込むと、突き刺さった錆びた剣に情報解析の為の雷波を照射させて剣の内部解析に取り掛かった。
「探す場所は間違えないでよ?」
「黙ってろッ。見つけなくちゃいけないのは魔力発鉱の発生根源部分の有無……」
雷波発生魔法陣から返ってきたデータ解析を洗って、錆びている剣に魔力を発生させられる鉱石部分が存在するのかどうかを慎重に探る。
「あったッ! 剣の柄の部分っ! でも火が入っていないッ? くそっ!」
三回転も捻じれてしまった腕の痛みで地面さえ叩けないエタルは、悔しがることも出来ずに顔を歪める。
「火を入れる方法は?」
「火を入れる方法? 何か刺激があればいいのか? 剣の材質から言っても種類はなんだ? 雷波解析だけだと分かりにくいが……火でも風でも水でもない、雷属性にやや似ているけど材質の密度が異常に高すぎる」
「地属性の可能性は?」
「地属性ッ? 地属性の
そこでエタルは、一つの可能性に辿り着いた。
「今残っている雷鉱石の全出力10パーセントをありったけぶつければ剣は起動できるのかっ?」
「ギャンブルだね」
「外れればオレとあの子は地獄行きだ」
「その時はボクもオトモするよ。仲間は多いほうがいいだろ?」
「だったらこのギャンブルは負けられないな。少しでも可能性を上げるために、お前はもうちょっと離れてろ。シュレディっ!」
エタルの生気が蘇えってきた目を確認して、子猫も素早く避難する。その離れた距離をエタルも確認して、高速で自転させ始めた光学魔法陣の照準を、地面に突き刺さった剣に合わせた。
(これで起動できなければ、全ての魔力を失う)
だが、それでもやらなければならない。一から十を得る為には、そこに届くための行動と判断が必要になるのだ。
エタルが高速で回転する光学魔法陣の面積を絞ると、収束させて一点に目掛けて撃ち放つ。
「
エタルの叫んだ声で、放ったれた雷光は突き刺さっていた剣の柄に当たったが、剣を微かに後ろに押し込めるだけで微小な放電を放って消えていくと、期待していた反応はそれだけで終わり、その場は静寂していく。
「……やっぱり……ダメだったか?」
何も起きない剣の周囲に、エタルが肩を落とすと、どこからかほのかに熱を感じた。
「……まさか……」
エタルが茫然と見ると……目の前の剣の柄から止めどなく熱が伝わってくるのが分かる。
「熱が発生している? イケるっ。ぅぐぅっ!」
痛みが奔った腕を押さえて、熱を放つ錆び始めた剣に向かって服のボタンにしていた雷鉱石のカケラを翳し、電導系のエネルギーを探した。
(剣の雷系魔力を雷鉱石のカケラに接続させる。これで魔法陣が立ち上がれば勝機が出てくる)
指で抓んだ雷鉱石を剣に向けて、雷力で引き寄せられた瞬間に魔法陣を点火させる。その現象を期待してエタルは剣と自分が向けている雷鉱石のカケラを見比べる。
(できるか……?)
それでも電導の反応が何も返ってこない時。
(ダメか……)
雷鉱石を摘まむ指先に、微かに石が離れていく感触を感じた。
「今かっ?
咄嗟に唱えた起動命唱で、満身創痍のエタルの周囲に様々な魔法陣が展開し発生する。巻き起こる風圧の中で、心地よい風を受けながら遠くで見つめる子猫は言った。
「やっと掴み取ったね。エタル」
ついに錆びていた世界樹の剣が開放された。
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