Lv4.大賢者エインステイン
アルバート・エインステイン。この名を知らぬ者は世界広しと云えども一人として存在しないだろう。
現在使われている近代魔法技術の根幹理論魔法である特殊相対性魔法と一般相対性魔法。この二大超魔法を作り上げた偉大なる人物。今や世界に知れ渡っている異世界ランキングの中でも前人未到の個人総合ランキングで歴代一位という絶大な功績と偉業を成し遂げた世界で最高の実力と知名度を誇っている超賢者だ。
この人物の前では全ての実績が霞んで見え、この賢者を上回る能力を持つ人間は永久に出現しないだろうとも讃えられている偉人中の偉人。
「エインステンを知ってるのか?」
アルバート・エインステインは、世間ではよくエインステンという愛称で親しまれている。大賢者エインステン。だからエタルもついついその名前で呼んでしまった。
「知ってるよ。でもあの人のほうはボクのことを知らなかっただろうね。ボクが目の前に居ても気づかなかったぐらいだから」
「エインステンがお前に気付かなかった?」
エタルはその事実に驚いた。
アルバート・エインステインは当然の如く、誰よりも魔法の力を備えている大賢者だ。その大賢者が、見た目が子猫とはいえ目の前の精霊の存在に気付けないはずがない。
「でも何度話しかけてもあのおじいちゃんはボクの声に全く反応してくれなかった」
クリームソーダを抱えこんだ小さな体で子猫は寂しそうに言う。
「一人でブツブツ独り言を言いながら部屋の中をうろつき回って考え事をしてた時もボクの存在にはこれっぽっちも気づいてくれなかったよ。あの人は。認知症だったのかな?」
「そんな言葉で人をバカにするな」
強く言い聞かせて子猫を嗜める。
「悪かったよ。でも本当の事なんだ」
「それはいつの事だ?」
エタルが問うと子猫も小さい頭でうーんと呻って考える。
「今から80年くらい前かな?」
80年前……。80年前というとエタルが生まれる遥か以前のことだ。
「たしかエインステンが死んだのは……」
「系歴1955年4月18日だね。ちなみに今が系歴2020年12月24日で、地球でいうとクリスマスイブってヤツ」
「だからクリームソーダを飲んでるのか?」
「ケーキも頼んでいい?」
「クリームソーダ飲んでろ」
「ちぇっ」
シュレディが大人しく小さな口でストローを咥え直したので、エタルは自分の魔法陣でエインステンの詳細を調べると結果が出てきた画面を見る。
アルバート・エインステイン(系歴1879年3月14日~1955年4月18日)
魔法物理学者。特殊相対性魔法や一般相対性魔法を構成したことで知られる。魔法量子仮説に基づく魔電効果によって1921年ローベル魔法学賞受賞。
備考:エインステインは生涯「神はサイコロを振らない」として局所実在原理及び隠れた変数魔法の存在を支持していた。
「局所実在原理に……隠れた変数魔法……?」
エタルが呟いた言葉に子猫のシュレディはにやりと笑みを浮かべる。
「そうなんだよ。あのおじいさんは自分が残した功績とは裏腹に局所実在原理と隠れた変数魔法を信望していた。エタルはエインステンさんの二つの相対性魔法については知ってる?」
「オレはまだ12だぞ。そんなの知るわけないだろ」
「でも何となくは学校でも習ったんじゃない? エタルだって一応、魔法学を聞き齧って使う
採掘時の作業着から魔法使い用の青いローブに着替えたエタルを見て、シュレディは試す様に笑って言う。
「……たしか……特殊相対性魔法は光属性を司り、一般相対性魔法は光と闇の両方の性質を司っているという話はどこかで聞いた」
エタルの答えにシュレディは満足そうに頷く。
「それで間違ってないよ。あのおじいさん、アルバート・エインステインは二つの魔法によって、光と闇の属性を時間と空間を含めて明確に説明して記述してみせた。進む力と引き寄せる力の働きについてだ。これを魔法的に構築したことによって、今の君たちの魔法物理学は成り立っている」
「それがどうしたって言うんだ」
「……問題は、この二つの相対性魔法の性質が確率的な属性に寄ってしまうことだった。エインステインはそれを嫌っていた。勿論、ボクたちもそれに期待していた。彼なら既にこの世界が決定されている結果によって動いてることに気付いてくれるだろうと思ってたんだ」
「……ボクたち?」
「……そう。ボクたちだ。でもその話はもう少し後にしよう。エインステンは確率的な性質が嫌いだった。彼は全ての物事は決定論で動いてるのだと信仰していた」
「……決定論」
「決定論っていうのは乱暴に言ってしまえば全ての物事は最初から結果が決まり切っているっていう極端な理論さ。何をしても、していなくても結果は既に決まり切った事しか起こらないという理屈の理論」
「その決定論というヤツをあのエインステンは信じていた?」
「その通りだ。しかし、それを達成する前にこの世を去ってしまった……」
瞑らな瞳の視線を落とす子猫に、エタルの気分も沈んでしまう。
「達成しそうだったのか?」
エタルの問いには子猫は首を振った。
「それが出来てたら、あの人はとっくにボクの姿が見えてただろうね」
「見えてなかったから無理だった?」
「違う。逆だよ。ムリだったから見えなかったんだ。あの人は結局、光の檻に捕らわれていた」
「光の檻……?」
「特殊相対性魔法の光速度普遍の真理さ。知らないの?光の速度は永遠に超える事ができないっていう有名なヤツ」
ネコが怪訝に見てくるので、エタルは不満そうに答える。
「バカにするのもいい加減にしろよ。オレだってそれぐらいは知ってる。光が一秒間に進める長さを超えた距離を物質は一瞬で移動する事はできないって
「……でもキミはそれを信じてないんだろ?」
見透かしてくる子猫の小さな瞳を見てエタルは目を開いた。
「キミは物が超光速で動くことを直感で信じている。だからキミはボクを見つけることができたんだよ。エタル・ヴリザード。ここで、他人がボクを視認できる条件を教えてあげよう。それはこの世界で光速を超えて動ける物を既に認識している人間だ」
白い子猫が、選ばれた少年を見て言った。
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