Lv3.異世界ランキング歴代一位


「現在の異世界ランキングは既に、世界を救う為には機能していない」


 その真実を語る子猫が目の前に座る少年をじ、と見ている。


「当然だよね? 人気取りばかりにかまけてて実力がついてないんじゃ敵から国や民を守ることなんてできやしない」

「敵って誰だ」


 エタルがついに、クリームソーダのグラスにしがみ付く白い子猫に睨みかかった。


「敵って誰なんだ?」

「わかってるでしょ?」


 思わせぶりな子猫のシュレディの視線がエタルを射抜いている。


「国や民や町は常に襲われてる。にだ。それが何故かはもう分かってるでしょ?」


 問い詰めてくる子猫の視線に、エタルは口を開いた。


「国や町を襲うことがからだ……っ」


 それが悲しいランキングという制度の定め。


「ヒドイよねぇ。国や町を守るためにランキング制度を作ったのに、肝心のランキングを駆け上がるために国や町を襲う回数が順位を上げる材料になっちゃったなんて……」

「それはもうセカイラン王国では禁止されているッ」

「でも他の国や同族の中では独自にランキングを作って機能させているところもある」


 そう。現在、流行しているランキング制度を設けているのはもはやセカイラン王国だけではない。セカイラン王国のランキングは最も指標となるべき絶対的な地位を確立しているが、その下の細やかなランキングは他の国や集団でも独自に作られて集計されていた。


「最初にランキング制度を作ったセカイラン王国は罪作りな王国だったと思うよね。災いを遠ざける為に作ったシステムが逆に災いを生み出す仕組みに早変わりした。おかげで今のセカイラン王国は高名と悪名という二つの意味において最も有名だ」

「だからそれが何だって言うんだ」


 エタルには既に関係のない話だった。


「町が襲われる可能性はここオワリの町でも当然、無縁じゃない」


 シュレディの言葉でエタルは息がつまる。


「道具屋の子、可愛かったよね。あの子が襲われたらキミ? どう思う?」

「シュレディっ」

「怒らないでよ。だからエタルにも関係があるって言いたいんだ。怒るという事は関係があるってことでしょ? ボクはその可能性を心配してるんだから」

「どうしろっていうんだ」

「ランキング戦に参加するべきだ」

「断る」

「なぜ?」

「オレにはやるべきことがある」

「またその話かい?」


 ポリポリと耳の裏を掻いて子猫がクリームソーダから目を離して外を見る。


「勉強するんだったよね? 今日は何の勉強をするんだったかな?」

「お前には関係ない」

「当てて見せようか? ……冷度魔法……」


 シュレディの言葉で、光学魔法陣に伸ばそうとしていたエタルの手が止まった。


「違った? 冷度魔法じゃないの? じゃあ光速魔法かな? それとも超光速魔法の分野……」

「お前……どこからその話を……っ」

「恐い顔で睨まないでよ。ただの勘だよ。でも当たったんだ?」


 子猫が伺って見てくるとエタルは目を逸らした。


「という事は当たったんだね。どうする? この世界の魔法技術からまずは話をしてみる? 損はさせないと思うんだけど」

「記憶が戻ったのか?」

「だんだんとね。エタルと話してると刺激があっていいよ。知ってるでしょ?人と話すことなんてこっちは初めてだったんだからさ」

「初めて?」

「……あ」


 口が滑った、とでも言いたいようにシュレディがぽかんと開けた口からストローが落ちた。


「お前は一体何者なんだ。シュレディ」

「やっと興味を持ってくれたね。ここまで来るのにだいぶ時間が掛かっちゃったな」

「……時間……」

「……あ、いいところに反応したね。そうだ時間と光と冷度。この三つの要素に反応する人間をボクは探していたんだ。実は一番近いところまで行った人間もいたには居たんだけど。結局、その人はボクの存在を認識する事もできずにそのまま自分の場所で朽ちて逝ってしまったよ」

「逝ってしまったって……死んだのか?」


 エタルの問いにシュレディは頷く。


「人間は誰しも死ぬものでしょ。まあ他の生命だって、ボクでさえ死ぬときは死ぬもんだけど、それでも寿命で死ぬって事はまず無い。でも人間はそうはいかない。だから、その人も当然、死んでしまった。もう遠い話さ。だからを探していたんだ」

「……それがオレだっていうのか?」


 エタルの問いに白い子猫は頷いた。


「なんでオレなんだ」

「探してるんでしょ?この世界には本当の万理ことわりが隠れて存在することを」

「本当の万理ことわり……?なんだそれは?オレはただ……自分のやり方がみんなの常識と合わないだけで……」

「でもそのみんなの常識こそがこの世界の本当のことわりだと他のみんなも今だって思いこんでいるんじゃないのかい?」

「何が言いたいんだ?オレは別に他のみんなが今の世界の常識を世界の理だって思ていても別に疑問には感じていないし、おかしいとも思っていないっ」

「……なにそれ?」


 本当に理解できないように白い子猫が聞いてくる。


「オレはただ単にオレが生きるための手段が欲しいだけなんだよっ。別に他の人間に対してオレの言い分を分かってくれって言いたい訳じゃないッ」


 エタルの主張を聞くと、シュレディも何かを得心したように大きく深く頷いた。


「あ!、あ~。そっちなんだっ、そっちだからなんか違うって思ったんだ。エタルはあの人とは根本的に思想が違う。ボクが知ってる『あの人』は世界の真の法則を世界に教えようとしてた人だった。でもキミは違うんだな。キミ一人が分かっていればそれでいいんだ。でもそれは……キミが他の人たちと永遠にわかり合えない事でもある」

「……さっきから何を言ってるんだ? シュレディの言う『あの人』っていったい誰だ?」

「……知りたい?……」


 クリームソーダをまだ抱えている子猫が、真面目な眼差しをエタルに向けて訊いてくる。


「ああ。知りたい」

「じゃあ。教えるよ。ボクが言ってる『あの人』っていうのは現在の異世界ランキング個人総合で歴代単独一位の人間だ」


 その一言で、白い子猫が誰の事をいっているのかが分かった。


「そう。飲み込みが早いね。エタル・ヴリザード。ボクが言ってるのはその彼の人だ。この世界カヨランで最も偉大で最も能力が高く、もっとも功績を上げた有名な人物……」

「……大賢者エインステン……?」


 現在使われている全ての魔法理論を構築した超天才。大賢者アルバート・エインステインこそが、このシュレディの言っているだった。




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