宇宙探偵

euReka

宇宙探偵

「ねえ、なんかここお酒臭いんだけど」

 仕事の都合で女の子を預かることになったのだが、彼女はいろいろと文句が多い。

「それにさ、服とか食器とか本とかが絶望的に散らかっているんだけど、泥棒でも入ったの?」

 この宇宙船は、いつも俺一人だからとくに気にしていなかった……。

「まずは掃除をして、人間が住めるようにしましょ」

 彼女の口ぶりはまるで母親みたいで参ったが、二人で三時間かけて掃除をしたら、船内が見違えるように綺麗になった。

 さらに彼女は、花を活けた花瓶を置いたり、ぬいぐるみをいくつか配置したりして、無機質な船内をすっかり女の子らしい雰囲気に変えてしまった。

「宇宙探偵って、名前はかっこいいけど案外だらしないのね」


 まあ、女の子を預かるのもせいぜい一ヶ月ぐらいだから、好きにすればいい。

 宇宙探偵と言っても、活動する範囲が宇宙になるというだけで、やっていることは普通の探偵とそう変わらない。

 でも、宇宙を行き来する時間が長いから、普通の探偵よりは孤独かもしれない。

「ねえ、ホットケーキ焼いたから、あなたも食べて」

 お腹は全く空いていなかったが、仕方なく食べてみたら少し懐かしい味がした。

「あたしはパンケーキより、ホットケーキの方が好き。だってママは、ホットケーキしか作ってくれなかったから」

 俺には二つの違いがよく分からなかったが、彼女の機嫌が良さそうだったので、まあいいかと思った。


 女の子を預かってから、目的の星に着くまでに三週間。

 さらにその星で、目的の人物を探すのに一週間かかった。

「アフロディーテは、われわれの銀河が生き残るための最後の希望であり、はるばる連れてきて下さったことに感謝します」

 アフロディーテというのは女の子の名前で、彼女は銀河間戦争の切り札ということらしい。

「彼女は、悪しき第九銀河を滅ぼすために力を使い果たして消滅しますが、きっと未来の伝説になるでしょう」

 俺は、女の子を無事に届けることができて、やっと一息つくことができた。

 報酬も貰ったし、もうすぐ戦争も始まるから、こんな場所からはすぐに離れなければならない。


 宇宙船に戻ると、ソファの真ん中に彼女のぬいぐるみが鎮座していた。

 俺は深く溜息をついて、ぬいぐるみの隣に座り、ウイスキーをグラスに注いで一気に飲み込んだ。

 そして少し酔った体で立ち上がり、ぬいぐるみを彼女に返すために、もう一度さっきの場所へ戻ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宇宙探偵 euReka @akerue

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ