第6マッチ

もう月が真上まで登り、辺りはより一層静けさを増した。

街の真ん中の旅館の一室に、この時代と言うべきか、この国と言うべきか、それとは到底そぐわない服と覆面を、布団の真横に置くピンク髪の少女が寝息を立てていた。


辺りが暗闇から日が差す頃…


ドゴォォォン!!

建物の近くから爆音が響いた。


「え!?なに!?」

リリアが急いで着替え、覆面を被り外へ出る。


周りにも寝ぼけたように野次馬がゾロゾロと出てきた。


「な、なにあれ?どゆこと!?」

ちょうど一軒家の民家が潰れており、砂煙が晴れると音を響かせた正体が現れる。

それは全長にして約4メートル程はあろう巨人だった。

筋骨隆々で、肌の色は薄黒い。

腰の位置からボロい布が被されただけの服装で、そいつは次々と建物を破壊して回った。


「きゃあああああああああああああ!」

「うわあああああああああああ!!」

住民の叫び声が響き渡り、急いでその場から逃げる者で溢れた。


茫然と立ち尽くすリリアに向かい、巨人が駆け寄る。

「ヌゴォオオオオオ!」

巨人が叫び声を上げながら、リリアの背丈程もある拳を高速でぶちかます。


衝撃音が響き渡るも、巨人は不思議そうな顔をしていた。

「ヌォ!?」

巨人のパンチをリリアは片手の掌で受け止めていた。


「うぉらーーーー!」

リリアはそのまま巨人の首元までジャンプし、その太い首を両足でがっしり掴んだ、

すかさずバク宙のように身体を後ろへ捻らせ、巨人を頭から地面にめり込ませた。


「あ、あれが噂のリリアか…」

「や、やっぱすごいわね…」

その様子を見ていた住民がコソコソ話し、関心していた。


ドゴォォォン!!!


またも爆音が響き、リリアが振り返るとそこにはもう一体巨人が現れていた。

「な!?まだいるの!?」


巨人はその場に居た男の子を目掛けてパンチを入れ込む。

「ま、間に合わなっ…‼」

リリアが必死に巨人に追いつこうとするも、パンチはもう目前に迫っていた。


グギギギギギと、何かを絞め付けるような音が響いた。

「ン!?」

男の子の目の前で巨人の握り拳は止まり、よく見るとその腕にも引けを取らない程の大蛇が絡みつき締め上げていた。

「な、なに!?」

リリアが辺りを見渡す。


「祇園精舎の鐘の声

  諸行無常の響きあり」


どこからともなく声が聞こえる。


「娑羅双樹の花の色」

大蛇に絞められ身動きが取れない巨人は、スパァン、スパァンと切り刻まれる。


「盛者必衰の理をあらはす」

ドカーンと音がしたと同時に、巨人は爆発四散した。


「ほんと、良い詩を書くね、昔の人は」

ズズズーっとその大蛇が這って向かう先に、人影が見えた。

「よしよし、黒丸、戻っておいで」

黒丸と呼ばれた大蛇は、その人影の肩にちょこんと口先を乗せたと思いきや、そこからゆっくりと前頭から小さくなるように入っていった、それは刺青として浮かび上がり、少し露わになっている胸元から黒蛇の顔が見えた。

「やぁやぁ、リリア君だね、住民を助けてくれてありがとう」

髪は白と黒のツートンカラーで短め、上の服装は胸元が少しはだけた和服、ズボンはちょうど膝下で少しダボっとし、靴は甲を覆ったようなサンダル風の、雰囲気は爽やかと言える男が立っていた。

「あ、あなたがマエ様って呼ばれてる人ね!?」

「ようこそ忍びの国へ、僕からちゃんとしたおもてなしが出来ずにすまないね」

「いや、いいのよ、聞いてた通りの強さなのね」

「はっは、僕もリリア君の動き見てたよ、やっぱすごいねー」

「そ、それはどうも…」

「ところで、君がここへ来た理由はもう知っているよ?」

「お、話が早いわね」

「早速だけど、僕の城へ案内するよ、詳しい話はそこでしようか」

「そうね、案内してちょうだい!」


町は少し壊れたが、被害は最小限で済んだようだ。

近くに居た住民は、二強とも呼べるその2人が会話する様子を脚光の眼差しで見つめていた。






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