第11話 喜びの宴会
事態が収束したことで、また村に平和が訪れた。
復興したばかりの村を救ったバーブノウンとフィーダ。
それはもう大いに感謝され、胴上げされるほどだった。
ということで、今夜は復興が無事に終わった祝杯とバーブノウンたちが村を救った感謝の意も合わせて、盛大に宴会を開くことになった。
「はむっ! むぐっ! うん、美味しい」
「――――」
あんぐりと口が開けたままになっているバーブノウンの横で、腹ペコで餌を与えられた肉食動物のようにがぶりつくフィーダ。
あっという間に大きなお皿に乗った食べ物は彼女のお腹の中へと放り込まれていく。
「まだ食べるの?」
「うん、まだ3分目くらい」
「す、すごいね……」
おかわりをもらってはすぐにガツガツと食べ始めるフィーダを見ながら、バーブノウンは食べ物を食べながらちびちびとお酒を飲んでいた。
この世界では飲酒の年齢制限がないため、現在16歳のバーブノウンでも飲むことが出来る。
しかし、彼はお酒にあまり強くない。
一気に飲んでしまうとすぐに千鳥足になってベロベロになってしまうため、少ない容量でちょっとずつ飲んでいくのが、彼のスタイルなのだ。
「――――ぷはっ! 美味しい……。お酒なんていつぶりだろう……」
「お酒飲んでなかったの?」
「うん。ずっと雑用係だったから飲ませてもくれなくて……。一回だけ1人で飲んだ以来かな」
「――――じゃあこれからはいっぱい飲めるね」
「あはは……全くだよ。僕はあまりお酒は強くないけど、飲むのはすごく好きだからね」
バーブノウンは嬉しそうな表情をしながら、また小さくひと口飲んだ。
少しだけ酔いが回ってきたようで、彼の頬がほんのり赤くなっていた。
それを見たフィーダは微かに微笑んだ後、また大きな口で食べ始めた。
周りは盛り上がりを見せ、村人たちは焚き火を囲んで踊っている。
みんなでお酒を飲んで酔っ払いながらこの村の伝統の舞を踊ることが、祝い事で楽しむ方法なのだ。
「バーブ」
「なに?」
そんな景色を見てひとり楽しんでいるバーブノウンのすぐ傍に寄ってきたフィーダ。
お腹いっぱい食べられて満足したようで、大きく飛び出たお腹が服からはみ出していた。
「これからどうするの?」
「これから、か……。うーん、特にこれからやりたいこともないからしばらくここにいても良いかなって思ってる。ゴブリンの大群からは守ることができたけど、まだ安全とは言えない。みんなからは村の防衛をお願いしたいって頼まれたりもしてるし……。もしフィーダがどこか行きたいって言うのなら、僕は喜んでついて行くよ」
「わたしはずっとバーブについて行く」
「えっ?」
「だってバーブと一緒にいると楽しいから」
「――――!? そ、そっか……」
バーブノウンはフィーダにそう言われ、少し照れながらお酒をひと口飲む。
グラスの中に入ったお酒はもうなくなってしまい、バーブノウンはぐいっとグラスを思いきり傾けた。
「――――ぷはっ! はあ、美味しかった!」
久し振りに飲んだお酒が美味しくて満足し、バーブノウンは飲み終わったグラスを置くとそのまま大の字になって仰向けに倒れた。
空には数え切れないほどの星があり、天の川も見えている。
こんな景色を見たのは故郷から旅立つ前以来久しかった。
(お父さんとお母さんは今どうしているんだろう……。今度久し振りに帰ってみようかな)
「バーブが考え事してる」
「えっ? あ、えっと……夜空を見てたら急に僕の故郷のこと思い出したんだよ」
「故郷……」
フィーダはその言葉を小さな声で呟くと、だんだんと暗い表情に変わっていく。
「あっ、ごめんね! フィーダのこと何も考えずに言っちゃって!」
「ううん、大丈夫……」
バーブノウンはしまったと口を手で抑え込み、慌ててフィーダに謝った。
フィーダは平気だと言ったが、故郷のことを思い出してしまった以上はなかなか立ち直れない。
バーブノウンに出会う前の記憶が、彼女の頭の中でぐるぐると回っている。
「ほ、本当にごめんねフィーダ! 僕が何も気を使わないでつい言ってしまったから、だよね……」
バーブノウンはフィーダの表情を見てさらに謝った。
フィーダはゆっくりと顔を上げた。
自分のせいで彼女を辛い思いにさせてしまった反省と心配が入り混じって、複雑な表情になっているバーブノウンが眼に入った。
「――――」
「――――! フィ、フィーダ!?」
フィーダはバーブノウンの上に覆いかぶさるように抱きしめた。
突然の出来事にバーブノウンは驚き、顔を真っ赤にした。
しかし、眼の前にあるフィーダの目から一筋の涙が流れていた。
「フィーダ?」
「ごめんね……。バーブの顔を見たら……安心しちゃって何故か涙が流れて……」
フィーダはすすり泣きをしながらそう言った。
バーブノウンは何も言わず、彼女の頭に手を置いて優しく撫でてあげた。
少しでも安心できるなら、と思うと手が勝手に動いたのだ。
「フィーダ……。僕はフィーダほど強くないけど、これ以上絶対に辛い思いはさせないからね……」
バーブノウンは小さな声でそう言った。
そして、フィーダが泣き止むまで、ずっと彼女の頭を撫で続けたのだった。
◇◇◇
夜を越えて空が白み始めたところで宴会はお開きとなった。
みんなして深酒のし過ぎでベロベロに酔っ払ってしまい、だらしない格好では腹を出して寝ていたり、座ったままの状態で涎を垂らして寝てしまっていたりしている。
ちなみにバーブノウンとフィーダはというと、
「すぅ、すぅ……」
「う、ん……すぅ、すぅ……」
バーブノウンは仰向けで大の字になって寝ていて、彼に寄り添うようにフィーダはむにゃむにゃと寝言を言いながら寝返りをしていた。
フィーダがあらゆる方向に寝返りを打ち続け、最終的にバーブノウンに寄り添う形になってしまっているだけである。
しかし、フィーダの表情を見ると何だか嬉しそうだ。
まるで彼氏の傍にいられて嬉しくなっている彼女のように。
太陽は村に平和が訪れたことを祝福してくれるように紫からピンク、やがて眩しいオレンジ色の光が村全体を照らした。
その瞬間を拝む老人、ヤイイリス村長は太陽に向かって感謝の意を込めた。
そして、彼は首にかかっているネックレスを手にとって優しく包み込んだ。
「――――これからも村の平和を見守ってください。そして……どうかあの子を、あなたと同じ
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