第12話 村でのんびりと1
「う、ん……」
バーブノウンが目を覚まし、目を擦りながら上半身を起こそうとした。
しかし、何故かものすごく重たい。
何かが自分のお腹の上に乗っかっているような感覚……。
下に視線を向けると……そこにはバーブノウンのお腹の上ですやすやと眠っているフィーダがいた。
「――――!?」
「う、ん……ふわあ……。あ、バーブおはよう」
「お、おはよう……。起きたてのところ申し訳ないんだけど、なんで僕のお腹の上で寝てたの?」
「うーん……」
バーブノウンの質問に、フィーダは目を擦りながら答えた。
「分からない。気づいたらバーブのお腹の上で寝てた」
「そ、そうなんだ」
多分寝ぼけてこうなってしまったんだろうと、バーブノウンはそう結論づけた。
フィーダの寝相が悪いことは百も承知。
変な想像をしないように、バーブノウンはブンブンと頭を横に振った。
「ねえフィーダ。僕これから川に行って体洗いたいんだ。だからよけてくれると嬉しいんだけど……」
「むー……しょうがないからどけてあげる」
フィーダは少し不満そうな顔をしながらも、バーブノウンから体を離した。
「そうだ! フィーダも一緒に行く?」
バーブノウンはフィーダにそう言った。
彼には下心があるはずもないので、ただ誘っただけであるが……。
フィーダはバーブノウンの言葉を聞いた途端、彼から一歩遠ざかると、
「絶対イヤ」
「ええっ!?」
「絶対またわたしのすっぽんぽん見ようとするだろうから。じゃあ、先に行ってくるね」
「えっ……! ちょっと待ってよぉ!」
フィーダはバーブノウンの声に聞く耳を待たずに飛び立って行ってしまった。
フィーダが空に向かって飛んでいくのを見て、バーブノウンは伸ばす手がそれも虚しく……フィーダに置いてけぼりにされてしまった。
「うっ……頭が痛い……。久しぶりのお酒だったから結構酔っちゃったみたい……」
ズキッと頭痛がした。
久しぶりだったことで気持ちが高まってしまい、いつも以上に飲んでしまったバーブノウン。
吐き気がするほどではないが、顔色はあまりよろしくない状態だ。
(立てるくらいになるまでここで座っていよう……)
しばらくは立てそうにないと判断したバーブノウンは、その場に座ったまま空を見上げた。
今日も晴天で、ひとつだけ小さいわた雲が浮かんでいた。
バーブノウンはそのわた雲を見ていると、ある思いが込み上げてきた。
(まるでパーティーにいた頃の僕みたいだ……)
そんな言葉が、彼の中に自然と出てきた。
周りは何もなく、孤独で気力もないような感じでゆっくりと右側に向かって移動していくわた雲。
そんな様子をバーブノウンは、まだロレンスたちの勇者パーティーにいた頃の自分に当てはめていた。
しかし、そんなことを考えていたのも束の間だった。
バーブノウンはその雲を見ているうちに、また違う思いが彼を包み込んだ。
(でも……あの雲……とっても自由な感じだな……)
バーブノウンにはそう感じた。
どこか自由な感じがした。
(僕の今は……あの雲のように自由に生きてる。ロレンスのパーティーから追放されてから僕は自由に暮らしてきているし、ここの村の人たち、そしてフィーダと出会えた。そう考えると、僕はすごく充実した暮らしをしている気がする)
そう思っただけで、バーブノウンの口元は緩んだ。
まだ勇者パーティーから追放されてわずか3日しか経っていないため、バーブノウンの心の傷は完全には癒えていない。
たまにこのように、ネガティブな思考になりがちになってしまうこともあるが、フィーダと出会ってから、とても楽しい生活をしている。
改めて、フィーダとの出会いに感謝をしたバーブノウンだった。
「どうしたの? そんなに嬉しそうな顔して」
「わあああ! びっくりした! い、いつの間にいたの!?」
「ずっと前からいた。何回もバーブのこと呼んだけど、お空見たままずっと嬉しそうな顔をしながらぼーっとしてた」
「そ、そうだったんだ……」
やってしまっとでも言うように、バーブノウンは頭を掻いた。
ただ、フィーダが言っていたことから、無意識に口で独り言のように話していたようではなかったので、もっと恥ずかしい思いをすることがなかったことが幸いだった。
「もう水浴びは終わったの?」
「うん、とてもひんやりしてて気持ち良かった。バーブも浴びてきたら?」
「うん、そうするよ。ちょっと二日酔いが冷めてきたし、汗で体が汚れてしまっているから」
バーブノウンはそう言うと立ち上がり、小川へと向かっていった。
フィーダはバーブノウンの後ろ姿を見ると、口角が上がった。
「わたしと出会えてよかった……。わたしもバーブに出会えて良かったよ。今わたしがここにいられるのも、楽しく暮らしているのも、全部バーブのお陰だから」
フィーダは小さな声でそう言った。
彼女の顔は、とても嬉しそうだった。
◇◇◇
ムスターヒ村の住民たちと挨拶を交わしながら、バーブノウンはいつもの小川へと向かった。
前回は偶然にもフィーダが水浴びをしているところを見てしまい、おまけに顔を洗って顔を上げた瞬間に眼の前にゴブリンがいたという大変な目に遭ってしまった。
今回、フィーダは先に水浴びをしているため、フィーダの水浴びをしているところを見てしまう心配はないものの、またモンスターに出会ってしまうことはないだろうかとドギマギしながら川の水を浴びていた。
「ふう……ひんやりしてて気持ち良い……。酔いも冷めてきた」
リラックスしながらそう独り言を言うバーブノウン。
二日酔いで顔色が悪かったバーブノウンもだんだんと元に戻っていき、今はいつも通りで元気なバーブノウンの顔になっている。
「ふう……」
「おや……これはこれは、バーブノウンくんではないか。わしも一緒にいいかの?」
「――――!? そ、村長!? ど、どうぞ……」
リラックスしているところに、突然バーブノウンに話しかけてきた老人。
その人はムスターヒ村の長、ヤイイリス村長だった。
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