第10話 早速襲撃される

 バーブノウンが新たに習得した風魔法はさらに進化を続けた。

目標に向かって正確に当てることが出来たり、物を運べるようになったり……。

それは数々の魔法をることが出来るフィーダでさえ驚くことだった。

彼の風魔法のおかげで村の復興作業はさらに捗り、復興作業が始まってから1週間あまりで復興完了までもうすぐというところまで進んでいた。


「バーブノウンくん! そこにある木材を上げてこっちに持ってきてもらっても良い?」


「うん、わかった! 『エアーホールド』!」


 バーブノウンの詠唱で、建設中の住宅の傍に置いてある木材がふわりと浮き始めた。

建設中の住宅には必要な部品や道具があるため、それらが飛ばないように慎重に魔力を調整しながら、ゆっくりと持ち上げていく。

 屋根の上にはムブタヒジがいる。

彼が手を使ってバーブノウンに合図を送り、バーブノウンはそれを見ながら木材を運んでいく。


「もうちょっと……オッケー!」


「魔法の効果が切れたら触って大丈夫だからね!」


「はいよ! サンキュー。助かったよ!」


 バーブノウンが魔法を止めても少しの間は効力が残るため、しばらくは触ることができない。

かまいたちのように風が渦巻いているため、触ってしまえば肌が切れて大怪我につながってしまうからだ。

 そのため、完全に魔法が解けてから触るようにと、バーブノウンは注意を作業をしている人たちに促していた。


「おーい! こっちも運んでくれー!」


「はーい!」


 バーブノウンは大いに貢献し、復興作業もいよいよ大詰めに差し掛かった。









◇◇◇








 お昼を挟んで3時間後、いよいよ最後の作業が終わろうとしていた。

村人みんなが、最後の作業が終わるところを一目見ようと集まってきた。

そこは、村長ヤイイリスの住宅となる場所で、仕上げの飾り付けをおこなっている。


「っしょっと……。完成したぞおおおお!」


 ハジムが手を上げて振り向き、みんなの前でそう叫ぶと、村人のみんなはそれに応えるように大きな歓声を上げた。

勿論、バーブノウンも心の底から喜んで飛び跳ねている。

フィーダも手を叩いて喜びを表現していた。

 さあ、これで全ての復興作業が完成し、平和に暮らせることができる。

みんなが揃ってそう思った矢先だった。


「――――! お、おい! 何か遠くから音がしないか?」


「ね、ねえ! あれを見て! 何かがこっちに向かってくるわ!」


 1人の女性が右側の平原を指して、青ざめた顔をした。

バーブノウンは目を凝らしてよく見てみると……向こうから村に向かってくる大量のゴブリンたちが襲いかかろうとしていたのだ。

 村人たちは絶望に満ちた顔に変わっていった。

せっかくここまで頑張って復興させたのに、また全てそれが台無しになってしまうのか……。


「バーブ!」


「うん……! みなさんは丘の上に登って安全を確保して下さい! ここは僕達に任せてください!」


 バーブノウンとフィーダは顔を合わせて一緒にコクリと頷くと、ゴブリンたちのところへと向かっていった。

村の中心を抜け、向こう側にある草原にはすでにゴブリンの群れが目前に迫っていた。


「随分多いね」


「バーブ、どうするの?」


「『エアーカッター』!」


 バーブノウンは躊躇なく風魔法をゴブリンの群れに向かって放った。

彼が腕を大きく横に全力で振ると、前線にいたゴブリンたちの体が真っ二つに引き裂かれた。

魔法は消えることなく奥に向かってどんどん突き進んでいき、あっという間に排除していく。


「いける……いけるよフィーダ!」


「――――」


 バーブノウンは楽しそうな顔をしながらフィーダにそう言った。

彼は木の伐採に使っていた風魔法『エアーカッター』を敵を倒す武器に変えてしまったのだ。

どんどん新しい発想を生み出し、それを安々と使いこなしていく……。

フィーダはバーブノウンが初めて風魔法を取得し、短時間で使いこなしていく過程を見ていた時と同様、その場に立ち尽くしたままバーブノウンの背中を見続けていた。


(何だろうこの気持ち……。胸高鳴るような……ううん、そんな感じでもない)


 フィーダは大量のゴブリンの前で戦うバーブノウンの姿に見惚れてしまいながら、胸に手を当てた。

何故かはわからないが、全身が熱い。

我を忘れてしまいそうになるくらいにバーブノウンの姿を見ていた。


「フィーダ……フィーダ! フィーダも援助お願い! 1人じゃやっぱり無理!」


「――――」


 バーブノウンは後ろで立ち尽くしているフィーダを何度も呼んだ。

風魔法を連発して何とか堪えているが、数が多すぎて手に負えない状況に変わりつつあった。

魔力量が多い彼でも風魔法は魔力を多く使うようで、自分の魔力は危険値を迎えようとしていた。

 魔力がなくなるに連れて徐々に疲労が溜まり、魔力が尽きてしまうと命の危険性がり、最悪死を迎えてしまうことがある。

魔力というものは『第2の生命』とも言われるくらい、体にとって重要なものなのだ。

 その証拠に、バーブノウンの額から大量の汗が流れ、頬を伝って地面へ雫となって落ちている。

肩を大きく上下に動かし、口を大きく開けて息をしていた。

目も少し虚ろになっている。


「うん……! じゃあとっておきのやつを見せてあげる……。バーブ、危ないから後ろに下がって」


「う、うん!」


 我に返ったフィーダは俯いたまま口角をあげると、両手を前に突き出した。

そして、バーブノウンが理解できない言葉を使って詠唱を始める。

その間に、バーブノウンは安全な位置まで後ろに下がった。


「『――――』!」


 フィーダは人間には理解できない言葉を言い放つと全身の周りに光が輝き始め、掌に明るい銀色の玉が生成され、迫りくるゴブリンの群れに向かって放たれた。


「まぶしっ!」


 ゴブリンの群れに当たった瞬間に銀色の玉は勢い良く発光し、眼の前が真っ白になった。

あまりの眩しさに、バーブノウンは思わず腕で目を隠した。

ドゴンゴゴゴ……! という空に鳴り響くくらいの地響きが鳴り、地面が揺れる。

そして、フィーダが光に飲み込まれていく。


「フィーダ!」


 しかし、バーブノウンの声は爆音にかき消されてしまい、フィーダの耳に届くことなく、彼女は光に飲み込まれてしまった。

それを見たバーブノウンは一瞬にして絶望に満ちた表情へと変わった。

 もっと自分が限界まで堪えていれば、こんなことにはならなかった。

バーブノウンは後悔と悲しさが入り混じり、崩れるように座り込んだ。

そして手を地面につくと、彼の目から涙が溢れかえった。

大粒の涙は雫となって落ち、地面に落ちると土に染みていった。


(フィーダに出会えたというのに、僕は馬鹿だ、馬鹿だ……!)


 そんな言葉を、バーブノウンは心のなかで何度も言った。

1人悲しみに浸る中、光はどんどん輝きを失っていく。

 目を隠さなくても見れるようになるくらいになると、バーブノウンはゆっくりと顔を上げた。

そして、彼は目の前の光景に思わず目を大きく見開いた。

彼の目に映ったもの……服がボロボロになってしまっていて、爆風が弱まった風で銀色の長い髪がいい感じになびく少女、まさしくフィーダだった。


「――――フィーダ」


「ふう、バーブ終わったよ――――何でそんなに泣いてるの?」


「え――――っ!? な、何でもない!」


 フィーダがバーブノウンに向かって振り向くと、バーブノウンは顔を赤くして慌てて顔を手で隠し、バッと後ろを向いた。

 何があったのだろうかと思ったフィーダは自分の体を見ると、服が破けて本来隠すべき場所が見えてしまっていた。

爆風によって服が破けてしまったようだ。

フィーダはゆっくりと腕で隠すと、微かにニヤリと笑った。


「バーブのエッチ……」


「ぼ、僕は見てない! 見てないからね!」


 バーブノウンは慌てた口調で目を腕で隠し、見えないようにしながらそう言った。

 何とか村を守ることができて一件落着した2人。

最後はやっぱりグダグダになってしまうのも、何とも2人らしい。

 ちなみに、フィーダのボロボロになってしまった服は、村のご婦人たちによって綺麗に直してもらったのだった。

そしてバーブノウンは、また女性たちに変な目で見られるのだった。


「ぼ、僕のせいじゃないからね! だからみんな……そんな目で見ないでよおおお!」

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