第一章 光と魔術師の物語
第1話
「コーデリアさまにとっての幸せとは、いったいなんですか」
あれは、レイヴェルと出会って二年が経とうかというころのこと。
人形姫として定められた祈りを繰り返す私に、彼はふいに問いかけたのだ。
不思議なことを訊く、と思った。
私は人形姫で、私自身の幸福なんて考えたこともなかった上に、考える必要もないことだからだ。私が生贄になることで、この国の安寧を守ることができて、この先も民が健やかに暮らせるのなら、それでいい。
だが、言い換えれば、人形姫の使命こそが、私の幸福そのものだと言ってもいいのだろう。
だから私は、闇の向こうにいる彼に笑いかけたのだ。
「人形姫として立派に使命を果たせたら、私は幸せだわ」
「……つまり、生贄として一生を終えることが、あなたにとっての『幸福な結末』だということですか?」
「そうね。それでみんなが幸せに生きられるのなら、こんなにすばらしいことはないわ」
「そうですか。生贄となることが、コーデリアさまにとっての『幸福な結末』なのですね」
彼は否定も肯定もせず、私の言葉を噛みしめるように繰り返した。何か含みがあるような様子でもなく、記憶に刻みつけるような淡々とした言い方だった。
「変なレイヴェル。どうしたの? 急に」
「いいえ、確かめておきたかっただけです。……あなたが人形姫であることに誇りを持っているのなら、僕も祝福します。生贄となる役目は、あなたにしかできない、とても特別なことなのですね」
彼は静かな声で笑った。背中を押すような彼の言葉に、嬉しくなってしまう。
そうなのだ、人形姫は、とても特別な使命を背負っているのだ。みんなのために女神さまの御許へ自ら赴き、命と引き換えに王国を浄化し、安寧を授けてもらう。
愛し子さまと同じ色彩を持った私にしかできない、誇り高い役目なのだ。
「そう言ってくれて本当に嬉しいわ。……ところで、そういうレイヴェルの幸せは、いったいなんなのかしら」
「……そうですね、僕の、幸せは――」
レイヴェルは口をつぐんで、それからふっと息をついた。
笑っているようにも思えたが、どうにも儚げな雰囲気にあふれている。
あのとき、彼は、いったいどんな表情で私を見ていたのだろう。
何を、言いかけていたのだろう。
――レイヴェル。
目覚めた先の世界で私、その答えを見つけられるかしら。
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