第30話
夜に部屋に来い。
その意味が分からないほどに俺も子供ではない。そして、そう命じられた灯は俺を見ていた。灯は、俺の部下であるから自分では決めることができないということなのだろう。俺は、戸惑った。
承諾するべきなのだろう。
ベリルは王族で、その命令に従わないことは無礼にあたる。だが、俺は灯にそんなことをして欲しくはないと思った。
「ルロ様」
灯が、俺の耳もとでささやく。
「ご命令ください。そうしれば、ボクは何でもできますから」
なんでもという言葉が、ひどくいやらしく、汚れて聞こえた。
そして、その言葉が灯の子供のように薄い唇から発せられていると思うと興奮もする。
「俺には決められない」
俺は、頭痛がするほどに考える。
だが、答えがでないのだ。
「灯様。ボクは、あなたのものである。あなたが決めてください」
その灯の言葉に、俺は拳を握った。
宝物なのだ。
灯は、俺にとってキラキラと輝く、綺麗で、壊れやすい、宝物なのだ。それをどうして、他人に貸し出せと言えるのだろうか。
「嫌なことはーーやってほしくない」
それが、俺の精いっぱいの答えだった。
灯は、微笑む。
安心したようにもみえる微笑みに、俺は救われたような心地になった。
灯はベリルに対して一礼をして、顔を上げることなく口火をきった。
「身に余る光栄でございますが主人の護衛がございますので、失礼させていただきます」
そう言った灯に、ベリルは唖然とする。
仕事があるから貴方のところには行けない、と堂々と断られたのだ。断られたベリルは、ぽかんとしていた。王族の自分の命令が断られるとは思わなかったのだろう。だが、灯は凛としながらベリルの命令を断ったのだ。
ベリルは最初こそ、灯の申し出の答えに茫然としていた。だが、正気に戻るや否や大笑いを始めた。一体どういうつもりか分からず、ベリルの側近たちも思わず彼の側を離れるほどであった。
「王族の俺の誘いを断るか!」
威圧的なベリルの言葉に、灯は微笑みで答える。
「ボクが忠誠を誓っているのは、ルロ様です。その護衛任務を投げ捨てるわけにはいきません」
「面白い奴め。絶対に、お前のことを愛人にしてやえろう」
くくく、と笑うベリル。
どうやら、灯はベリルの琴線にふれてしまったらしい。
だが、灯は澄ました顔をしていた。
「それは、できません。僕は、すでにルロ様のお父様の愛人だった身ですから」
灯の言葉に、あたりがぎょっとしたのを感じた。俺は俺で「それは今言わなくともいい情報なのではないか」と思った。
ベリルは、それを鼻で笑った。
「なんだ、それは奪い取れってことか?」
灯は、微笑みを崩さない。
「いいえ、死者からはなにも奪えないということです」
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