第2話
政略結婚で結ばれた父と母は、結婚当初から仲がよくなかった。
あまり体が丈夫ではない母は、ずっと涼しい土地で静養をしている。新婚当初の父は、母がいる土地に足しげく通っていたらしい。だが、跡取りの俺が生まれてからは、父は母がいる土地に寄り付かなくなった。そのことで父のことを恨めしく思った母は、子供の俺を側において離そうとはしなかった。
そのため、俺は父の顔を知らない。
遠い土地で起こった戦争で死んだ父は、最後まで母と息子のもとに帰ってくることはなかったからだ。
馬に揺られながら、俺は産まれて初めて見ることになる自分の領地というものに思いをはせていた。俺の名は、ルロ・フォルゼ。
フォルゼ地方を納めていた領主の息子であり、領主であった父が死んでしまったために現領主になってしまった男である。平均身長より少しだけ低い背丈がコンプレックスだが、それ以外は顔も会わせたことがない父親に似ているらしい。茶色の髪と同色の瞳という地味な容姿の俺は、そんなところは似ていなくて良いのにと思うときがある。
普通ならば俺のような領主の跡取りは、自分の領内で育つものだ。しかし、母の意向によって俺は自分の領内では育っていない。そのため自分の領地なのに、俺は父親が死んでから生まれて初めて足を踏み入れるという羽目になったのである。
「このあたりは、暑くはありませんか?」
俺の前に立って馬を歩かせていたのは、フリジア・アシロ。俺と同い年とは思えないほど、落ち着いた青年だった。彼の母が俺の乳母だったので、俺とは乳兄妹という関係である。
フリジアは、華やかな容姿をしている。炎色の赤毛に、鮮やかな空色の瞳。整った容姿のフリジアは、俺の故郷にいた幼い時から女にモテた。整った容姿に、物腰丁寧な性格なのだから女たちが興味を示すのは当たり前だろう。
「大丈夫だ。俺だって、訓練したんだぞ。そんなにヤワじゃないって」
本当は、暑かった。涼しい場所で育った俺は、この土地の暑さにまだ慣れていなかったのだ。その上、俺は正装に近い恰好をしていた。
厚い布を重ねて作られた正装は、非常に暑かったりする。それでも俺が暑いと言わなかったのは、プライドがあったからだ。フリジアの前で、領主らしくありたいと思っていたのだ。
故郷で俺は騎士になるべく、修行していた。フリジアとは違って本物の戦いにはまだ参加したことがなかったが、それでも暑さぐらいに負けるとは思われたくはなかった。
フリジアはかなり前から故郷を出て、父の領地に住まうようになった。そこで、父について戦争にもいくつも参加したらしい。小さな頃は兄弟のように育ったフリジアだったが……だからこそフリジアには俺は甘く見られたくなかった。
しばらく歩くと、遠くで館と城下町が見えた。
「あれが、父上が住んでいた館か」
俺は、ぼそりと呟く。
父が住んでいた城は大きく、古めかしい雰囲気があった。俺が住んでいた母の屋敷よりは大きく、代々続く領主の住処らしかった。
「行くぞ」
俺は、馬の手綱をひいた。
その時、俺は眩暈を感じた。
俺の体が、大きく傾く。
「ルロ様!」
フリジアの慌てたような声が聞こえてきた。
俺は、馬から落ちたのだ。
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