父が残したのは領地と愛人でした

落花生

第1話


 放たれた火に馬が驚き、大きくいなないた。


 馬を御することができなくなった私は、そのまま振り落とされて地面に叩き落とされた。混乱する戦場の真ん中で馬を失った私は、他者に踏まれたり、馬に蹴られたりして、地面を転がった。死なないのが、不思議な光景だった。


 私の記憶は、この後ない。


どうやら地面を転がっている間に、気を失ったらしい。そして、気を失った私は川に落ちたようだった。冷たい水に飲まれた私は、川の流れに身を任せて随分と流されてしまったようだった。 


次に私が目覚めた時に、視界に入ったのは青空だった。私は自分が死んだと思ったので、天国にも空はあるのかと思った。


「――――!」


 動けない私に、話しかけてきたのは見慣れない人物だった。


東洋人だった。


私たちの言葉が喋れないらしい東洋人は、目覚めた私を見てほっと安堵していた。どうやら私を助けたのは、この東洋人らしい。


「君が助けたのか?」


 私の問いかけに、東洋人は首をかしげる。やはり、言葉は分からないらしい。


私は、ほうっと息を吐いた。


その途端に、体中に痛みが走った。私は悲鳴を上げる。体中の皮膚をかきむしりたい衝動にかられた。だが、私の手は思うように動かなかった。体が重くて、自由に動かすことができなかったのだ。私の体はどうなってしまったのだろうか、と思った。


なんとか腕を上げて、私は自分の視界に右手を納める。


 私の手は、焼けただれていた。


 私は、ひどい火傷を負っていた。この痛みでは、私の全身が焼けただれていることであろう。事実を意識してしまえば、呼吸をすることすら苦しくなってしまった。


痛みは、簡単に理性を奪っていく。ただ寝かされているだけなのに、息をするのも苦痛なのは地獄だった。生きていくことすら、私は嫌になってしまった。私は気力を振り絞って、腰につけていた剣を抜く。その剣で、私は自分の喉を突こうとした。


だが、私の剣は止まる。


私の喉に剣が届く前に、東洋人が刃を手で掴んで止めたのだ。東洋人の細い指からは血が流れ、その血は私の顔に降りかかった。暖かな血液は、私をはっとさせた。


東洋人の顔は、今にも泣きそうな顔をしていた。


「――――!」


 東洋人が、何を言っているかは分からない。


 それでも「死んではいけない」と言われているような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る