第3話 おっきな集落

 《ティア俺を殺す気なの、本気で蹴っただろ》

 

 《あらあんたから嫌な気配が滲み出てるからつい》

 

 ゴキブリのわりに察しが良いのが、ティアって奴だね。

 

 《ユリヤあの熊どうする》

 

 《持って行けないから、捨てるしかないな》

 

 《持って帰れば役に立つんだろ。俺が持っていって遣るよ》

 

 こんな熊さん俺なら2~3匹楽勝で納まる筈さ、うーお腹いっぱい9割り方塞がったね。

 これ以上大きいと、俺の食料備蓄の場所まで無くなる所だったぜ。

 俺達が護衛するから、野獣に出会う事もなくスイスイ森を歩ける。

 いや、出会ったんだけど鼻面に一発入れると、すぐに方向を変えたり逃げていくから楽なのよ。

 3日掛けて森を抜け、夕暮れ時に人族の集落に辿り着いた。

 がでかい、周囲を高い塀で囲み立派な門には、衛兵が数名いる。

 

 途中オッサンから聞いた話では、人族の集落としてはそこそこの大きな集落、と聞いていたがビックリだ。

 ラノベの知識は有るけど、妖精として3年以上生活してきた為に、すっかり人間基準の思考を忘れていた。

 冒険者ギルドって聞いても、ホーヘーって聞き流していたのは失敗だ。

 

 《オッサン俺達は上から街に入るよ。一緒に居ると何かと面倒そうだしな》

 

 《解った、俺はギルドに直行するから、上で呼ぶまで待っていてくれ》

 

 《はん、私はユリヤと一緒に集落に入るよ。良いよねユリヤ》

 

 《良いけど面倒事は起こすなよ、話は俺がつけるから》

 

 オッサンの肩に座って、嬉しそうなティアですこと。

 

 《仕方がないねティア、キラフ達と上にいるからな》

 《面白そうだね》

 《ファル可哀相ね》

 《でもティアもいい度胸してるね》

 《テノ可哀相ってのは止めてよ。やっと解放されそうなのに》

 《そうねファルって、ティアのお気に入りのおもちゃですものね》

 《止めてよ背筋が寒いよ》

 

 《あんた達筒抜けなの知ってて言ってるの》

 

 ユリヤが肩を振るわせて笑っていやがる。

 

 《でもなティアお前人族から見たら、ユリヤのペットかアクセサリーにしか見えないぞ<ウヮッ>》

 

 顔スレスレを氷の塊が飛んでいく、避けなきゃアウトだぜ。

 

 《危っぶねぇーなぁ、ティアそんなでかい氷に当たったら死ぬじゃないか。たっく殺す気満々だよな》

 

 《ファル余計な事は言わない方が・身・の・た・め・よ》

 

 《はい姐御》

 

 危ない危ない、暫くお口にチャックだね。

 

 「おいその肩に乗ってるのは妖精族か」

 

 「あーはい、ちょっと森で助けて貰ったもので」

 

 「大人しく肩に乗ってる様だが、妖精族って狂暴凶悪な奴が多いからな。騒ぎを起こさない様に良く見張っていろよ」

 

 おっこの衛兵よく判ってるじゃん。その肩に乗ってるのは、とりわけ狂暴だぞ。

 

 「分かってます。まぁこっちから手出しをしなければ、何もしませんから」

 

 無事通過した様だな、ティアが偉そうに見上げて笑ってる。

 

 《ユリヤ、ギルドって所に行くの》

 

 《そうだ、俺を熊の餌食にしようとした奴等には、落し前をつけて貰わねば寝付きが悪くなるからな》

 

 《危なかったら助けてあげるよ。ねぇファル》

 

 《フェッ・・・俺も手伝うの》

 

 《当たり前でしょ。私一人に遣らせて遊んでいるつもりなの》

 

 ヤバい声が氷点下の冷たさになってる、危険信号がオールレッドだ!

 

 《キラフ,テノ,アラフ,シュラク突撃準備用意!》

 

 《しゃーないね。ティアが言い出したら逆らっちゃ駄目って、ママも言ってたから》

 《えーファルですら逆らわないのに、俺達が逆らえる筈がないっしょ》

 《んだんだ》

 

 お前等東北民か北海道民の、生まれ変わりじゃないよな?

 転生者って俺以外にも沢山居ると思うけど、間違ってないよな。

 

 《おいお前ら魔力を押さえて、目立たない様にしろ。人族の群れの中に行ったら、目立ち過ぎるからな。目立つのはティアだけで上等よ。俺達はこっそり見てるだけ》

 

 《見てていざとなったら助けなさいよ、フ・ァ・ル》

 

 《イエース、姐御》

 

 《うえすーって何よ》

 

 ユリヤがギルドのドアを押し開けて受付に向かう。

 

 「エッ、ユリヤさん・・・生きて・・たの」

 

 「あー残念ながらね。奴等は何と報告したんだ」

 

 「ちょっちょっとギルマス呼んで来ますね」

 

 ドカドカ階段を踏み鳴らして下りてきた、厳つい顔立ちのギルマスと呼ばれるオッサン。

 

 「ユリヤどう言う事だ。エタンド達からは、お前が死んだと報告を受けたぞ」

 

 「ギルマス奴等は何と報告してます」

 

 「4日程前に森の奥でブラウンベアの奇襲を受け、深手を負ったお前を助けられずに、見捨てたと後悔していたが」

 

 「嘘だね。確かにブラウンベアとは遭遇したが。勝てないと弱音を吐き後ろから俺を蹴って、囮にして逃げたのが真相だね」

 

 「証拠は」

 

 「有るさ。先ず俺は確かに怪我はしたが、深手を負う様な怪我はしていない。服だって綺麗だろ、証言と違うのは分かるよな。もう一つファルに預けた物が有るんだ」

 

 「ファル?」

 

 「紹介するよ、因みに肩に乗って居るのがティアだ。ギルマス妖精が額に手を当てるから、じっとしていてくれ」

 

 《ティア頼む、ファル下りてきてくれるか》

 

 《ようオッサンファルだよ》

 《ティアだよ。初めましてだね》

 

 「おお初めてだよ妖精族の声を聞くのは」

 

 「ギルマス頭の中で、相手に向かって話しかけてやらないと聞こえないよ」

 

 《こっこうか》

 

 《返事になってないぞオッサン。頭の中で話しかけてくれなきゃわかんないよ》

 

 《かー面倒なもんだな》

 

 《ファル俺の上着を出してくれ》

 

 《ほいよ》

 

 「背中の部分を見てくれ、靴跡が着いて居るだろう。ヤルガに蹴られたんだ、笑いながら囮になりやがれってな」

 

 「おい〔森の牙〕の連中は何処に居る」

 

 「何処かで飲んだくれている筈ですよ。厄落としだって、呑みに行く話をしてましたから」

 

 「引きずってこい! 連れて来たら奴等の装備をやるぞ」

 

 <ウォー>って歓声と共に、冒険者達が街に散って行った。

 

 受付のお姉ちゃんや食堂で飲んでいた冒険者たちが、俺達を珍しがり周囲を取り囲んで煩い。

 俺はユリヤに言って、ブラウンベアをギルドに引き取って貰った。

 魔石60,000ダーラでブラウンベア100,000ダーラだと言われたがこの世界、てか人族の貨幣基準が解らない。

 仕方がないのでユリヤに相談し、半分やるから人族の草木の実を買うのに、付き合ってもらう事にした。

 

 俺とユリヤの話を聞いていた皆が、興味津々で浮かれている。

 人族の草木の実なんて初めてだからね、俺もだけど興味があってユリヤに着いて来たんだ。

 

 《ファル今日は無理だぞ、明日の昼に市場に付き合ってやるからな。俺の泊まってるホテルを教えるから、明日の朝遅くに来な》

 

 《分かった森に行ってるよ。じゃ明日な》

 

 すっかり暗くなったが、森ならすぐそこだし皆でハンモックを吊し、明日を楽しみに寝た。

 

 ◇  ◇  ◇

 

 朝食は皆お気に入りの実を取りだし、交換しながらのんびり食べる。

 

 《あー皆に言っとくけど、魔力の実は人族に見せるなよ。人族以外にもだけど特に人族には》

 

 陽も高くなってきたのでユリヤのホテルに向かう。

 ティアがユリヤの部屋の窓を蹴ってる、乱暴な奴。

 

 《ユリヤ起きろ!ティアだよ。市場に樹の実を探しに行くよ。ユリヤ起きろ!》

 

 《乱暴なお姉ちゃんだな<ファー>まあ顔くらい洗わせろよ》

 

 《先に窓を開けてよ。ティアが窓を壊して中に入っちゃうよ》

 

 《厄介な奴だな。待ってろ直ぐ開けるから》

 

 《やあティア。今日も可愛いね》

 

 おっティアがクネクネしてるよ、イケメンに弱いねーティアって。

 服を着て下に下りて行くユリヤに着いていく。

 下は食堂になっていて、猫人族の少女と狐人族のおばさんがお茶を飲んでいた。

 ユリヤについて一緒に現れた俺達にビックリしている、ユリヤに頼んでおばさんと少女に魔力を合わせ話しかけた。

 

 《ファルだよ、驚かせて御免ねユリヤを起こしに来たの。之は勝手に入ったお詫び》

 

 そう言ってお気に入りの樹の実を差し出した。

 

 《おいそれって一つ銀貨1枚はするぞ》

 

 ふぅーん高級メロンかマスカットみたいな価値かな、おばさんと少女の手に樹の実を乗せ。

 

 《美味しいから食べてね》

 

 と伝えておく。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 「妖精族を統べる者」の別バージョン妖精編を書くつもりで、思いついた乱文を放置していたものに手を入れてみました。

 本当に気が向いた時にのみ修正して投稿しますので、続編は期待せず気長にお待ち下さい。

 (*ゝω・)ノ メンゴ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る