第2話 風に吹かれて西東

 最近の遊びは転移魔法で力一杯上に跳び自由落下、則ち紐無しバンジージャンプだね。

 しかも自分で上がって落ちるセルフバンジーだ。

 何が楽しいのかって。

 落ちるのはどうでもよいのだ、高度700メートル付近になれば羽根が出せる。

 何故700メートルって分かるかって東京スカイツリーの展望台の、倍近く高い感じだからそれくらいだろうってね。

 俺の勘を信じろ!

 

 つまり俺達妖精族の飛行限界高度より少し高い事になる、高度100メートル位で落ちるのを止め何もしない。

 風の吹くまま気の向くままに流されて行く、流れ流れても所詮森の上だが、以外と地面が見えたり珍しい果実を見つけたりするんだ。

 今日の風は西風で良い飛行日和だが、ゴキブリが出た。

 

 《ファル何してるの》

 

 《あーティア風を感じているのさ、男は風を身に受け思考するものさ》

 

 《そう、つまり何か新しい遊びを始めたって訳ね。皆ファルが何か面白い事してるよー》

 

 アチャー、ワラワラと集まって来る仲間達に囲まれる。

 

 《ファル言いなさい!》

 

 《へいへい姐御言いますよ。こうやって行き先を風に任せ、面白そうな所や美味い果実を探してるんですよ》

 

 《そんなのが楽しいの、変わってんね》

 

 女に男のロマンは理解出来ないぜ。

 ハードボイルドを気取っていたら、木立の隙間から人の姿が見えた。

 人も居るのか、産まれてこの方この世界で人を見るのは初めてだ。

 

 《ティア人だひとが居るよ》

 

 《ひとって何よ。んーぁー人族ね、人族には関わるなって言われてるでしょ》

 

 《でも俺は人族って初めて見るんだ。ちょっと見物してくるね》

 

 近くの樹の枝に止まって見てみると、熊公と喧嘩・・・じゃねぇ闘っているよ。

 

 《あれは勝ち目がないね》

 

 ティアの冷たい声に同意はするが声には出さない。

 人の背丈の倍以上は有る熊の巨体に、ロングソード一本では勝ち目は無い。

 魔法が使えれば何とかなると思うが、それにしても仲間が居ないのが不思議だった。

 人族は森には一人では入って来ない、一人で森に来る人族は獣を倒せるだけの魔法が使える筈である。

 一人二人で森の中に居る人族は、魔法を使う奴が多いから気を付ける様に言われてるんだよな。

 仲間も居ない様で死ぬのは時間の問題だろう。

 

 《行くよ》

 

 ティアの声に促されて立ち去ろうとしたとき、熊に振り払われ飛ばされたたロングソードが飛んで来た。

 俺の止まる枝の足下に突き立つ、小便チビリそぅ(少し出たかも)になった。

 

 《てめぇー熊公舐めんじゃねぇー》

 

 熊公の目の前に飛び降りて鼻に一発雷撃を撃ち<グヮーッ>て悲鳴を挙げた口の中に火魔法を口一杯にプレゼントしたった。

 どうだ!って胸を張る俺の後頭部に<パシーン>と衝撃が。

 

 《阿呆ファル何やってんの》

 

 《だって俺死ぬとこだったんだぜ。刀でプスリってなったら死ぬだろ熊の癖に許せない!》

 

 《死んだらあたしが治してやるよ》

 

 《エッ、ティアって死人も治せるの》

 

 《ウーン・・・無理かな》

 

 ゴキブリと漫才していても仕方が無いので、人族を見てみる。

 おー、中々の美丈夫だね。

 ティアが人族の前に浮かぶと、いきなり治癒魔法を使いやがった。

 

 《ティア何やってんの、さっき人族に関わるなって》

 

 《あらファル焼いてんの》

 

 《ティア・・・お前人族に惚れたの》

 

 <スパーン>って音を聞いた様な気がする。

 気がついたら人族に襟首摘んでぶら下げられていた。

 何か言ってるけど解らないが、目線と表情で俺を憐れんで居るのが分かる。

 痛ってーぇ、ティアの奴絶対張り扇隠し持ってる吉本の回し者だぞ。

 助けてやった俺の襟首を摘む奴の手をポンポンして離させ、ティアの尻を思いっ切り蹴り飛ばした。

 

 イケメン美丈夫に頭から突っ込んだティアを見て笑い出すイケメン、おっ話せるオッサンだな。

 親指を立ててサムズアップするので、俺もサムズアップを返してニンマリ

 ティアはイケメン美丈夫にぶつかったまま離れようとしない。

 それどころか顔の前に浮かぶと額に掌を当てた。

 

 《ちょっと怪我を治してあげたのに、礼の一つも言えないの。愚図ね》


 あたふたするイケメンも面白いが男の友情で助けてやるか、

 

 《オッサン俺達は同族や他種族と言葉では話せないんだよ。頭の中で考えて話しかけて見ろよ》

 

 《分かったらお礼の一つも言いなさい》

 

 ティアってやっぱり姐御だよな、初対面の人族に上から目線の物言いとはやるな。

 

 《オッサンオッサン、あんたの目の前でプンスカしているのはティアって言うんだよ。早く怪我を治して貰った礼を言わないと、もっと酷い怪我をする事になるぞ》

 

 「あぁ有り難うティア」

 

 《頭の中で考えて話しかけるんだよ。口で言っても解らないよ》

 

 《有り難う、素敵なティア》

 

 こいつ嫌いだ!

 ティアもイチコロですがな、イケメンの破壊力半端ねぇな。

 

 と、待てよ俺いまこいつの言った事が解ったよな。

 俺達は念話でしか話が出来ない通じないって聞いてるけどこいつの言葉が解ったぞ。

 頭の中に???マークが乱れ飛ぶ、気のせいだろう気のせいだうん。

 

 「さっき助けてくれて有り難うな」

 

 思わず頷きかけたが危うく踏み止まる。

 

 《だから頭の中で考えて話し掛けろよ!、人族のオッサン》

 

 《俺はオッサンではない、ユリヤって名前が有るんだクソガキ》

 

 《オッ助けて貰って礼も言わずに、クソガキとは良い度胸だオッサン》

 

 「だーかーらーオッサンで」

 《だからオッサンではないユリヤっ名前が有るんだよ。クソガ・・・名前何だ》

 

 《ファルだよオッサンのユリヤ》

 

 ユリヤってヅカの百合ユリの薔薇の花束とフワフワの羽を背負ったキンキラキンのあれみたいな名前だな。

 

 《お前何か馬鹿にしてないか?、顔がにやけてるぞ》

 

 《いやお前男前だなと、ティアが惚れた様だし。気をつけろよこいつは自分で傷つけて治すのが趣味だから<グェッ>》

 

 《なるほど、でお前は治して貰えないのか》

 

 《お前性格悪いって言われるだろう》

 

 《そんなことはないぞ。皆優しいとか素敵とか言ってくれるな》

 

 《解ったよ、お前が此処に一人で居る訳が》

 

 《ファル、血の臭いで色々集まって来てるよ》

 

 《キラフ、テノ、アラフ、シュラク近寄れないように鼻面に一発お見舞いして追い払っておいてよ》

 

 《ティア行くよ、好みのイケメンだからって惚けてないの》

 

 《先に行ってなさい。せっかく助けて治したのに死なれるのは嫌だから、人族の集落迄送るわ》

 

 《ティアの初恋か!》

 《ファルが振られたぞ!》

 《ファル可哀相ね》

 

 人族のオッサン馬鹿笑いしていやがる。

 此処はゴキブ・・・ティアをオッサンに押し付け、その必要ないみたいだね。

 

 《まぁ仕方ないティアの初恋を応援するよ<ギャッ>》

 

 《痛ってー、なっ狂暴だろ》

 

 ティアの奴、ちゃっかりイケメン美丈夫オッサンの肩に座ってる。

 

 《ユリヤあんたの集落迄送ってあげるから、さっさと歩きなさい》

 

 《仕方がない、キラフ、テノ、アラフ、シュラク上で見張っていてよ。俺はティアがオッサンを人族の集落迄送るのについていくから。でオッサンは何で森に一人で居たんだ、人族は一人ではあまり森に入らないだろ》

 

 《一人で来た訳では無いが、結果としてひとりになっちまったんだよ》

 

 オッサンの後ろをついていってて気付いた。

 

 《オッサン仲間に裏切られたか捨てられたな》

 

 《おークソガキ良く解ったな》

 

 《ファルだよオッサン》

 

 《ユリヤだよクソガキ》

 

 《偉そうにするなら尻の靴跡を消してからにしな。さしずめ熊と出くわし勝てそうにないから、お前を囮に使って逃げたな》

 

 《見ていたのかよ》

 

 《いんや状況と尻の靴跡からの推測だね、ユリヤ君》

 

 《ユリヤあんたそれでやられっぱなしで、人族の集落に帰るの》

 

 《帰ったらしっかりやり返すさ。ティアに助けて貰ったから帰ったらお礼もしなきゃならないしね》

 

 《解った私も手伝うわ》

 

 駄目だ、ティアがこうなったらどうにもならない。

 それに惚れた男の為にやる気に<ギャー>

 ゴキブリの癖に勘だけは鋭いんだから、俺の怪我が絶えない訳だよ。

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