第八章

一成は蓮の家に車を停めると、合鍵を使い中へと入っていった。

「蓮、居るんでしょう」

 いつも通りの呼びかけに、

「そうだが……こう連日貴様が来るのも珍しいな」

と蓮は応答した。少し不審がっているようにも見えた。

「たまにはいいじゃないですか」

「構わんが……何の用だ?」

「星男に会ってきました」

蓮の顔が強張る。

「……何を話してきた」

 不機嫌ここに極まれり、という様子で蓮は訊ねる。

「蓮達の封印は解けないのか、と……」

「馬鹿馬鹿しい、解けるわけがないだろう。私を思ってだろうが、余計な気遣いだ」

 一刀両断する蓮。

「……俺は、カシマについて知りたくて行った。だが、思うような情報は手に入らなかった」

 正直に目的を話すと、蓮は怪訝な顔をした。

「貴様は何故そこまでカシマに拘る。理解しかねるな」

出雲閥の癖に、という言葉は飲み込まれたものの伝わってきた。

カシマは間違いなく大和閥の念だ。これ以上探りを入れるのは危険だろうか____そう思わざるを得ない。あそこまで重厚な念だ、行動を起こされたら怖い。

「……少し興味を持ったもんでな、でもこれで打ち切りにする」

「そうか」

 まだ怪しんでいる蓮を横目に、俺は昴への説明を考えていた。カシマサマ、その正体について話していいものなのか。悩む俺をよそに、二人は軽く口論をしている。


 カシマサマ。佐竹家の創始者であり、長年生き続ける念。たったこれだけの説明を、するのに迷っている俺が居た。ただ、悩んでいても埒が明かない。決断力が必要な局面だ。

「帰ろうぜ一成、俺急用ができてさぁ」

 一成はこちらにいつもの表情を向けると

「そうですか。では駅まで送りますよ。成田駅でいいですか?」

 と、問いかけてきた。俺は頷き、佐原邸を後にした。蓮の怪訝な表情が、何故か頭から離れなかった。

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