第三章

「……カシマサマか……」

俺__橘弥琴には、その言葉が引っかかっていた。千年を生きる人外がちょっかいをかけるということは、ただの念ではない。こういう時は、頼れる仲間に頼って情報収集をした方が良い。スマホを取り出し、電話をかける。

「もしもし、弥琴だけど」

「急にかけてこないでくださいよ、家に居たから良いですけど」

男性にしては高い声で、相手は応答した。

「……で、何のご用ですか?僕で役に立てれば良いのですが」

「一成、カシマサマって聞いたことないか?」

いきなり本題を切り出す。俺はじれったいのが、どうも好きではない。

「……何処でその単語をお聞きになったんですか?」

一成の声色が厳しいものに変化した。恐らく、本格的に危ない念だ。

「いやまぁ、俺の友達の友達から……なんかマズかったか?」

「いえ、弥琴さんはマズくありません。カシマサマというのは、何といいましょうか特殊なんです。僕の……知り合いの友人が『カシマサマ』です。会いたいと伝えれば、いくらでも会えますよ」

世界とは狭いもんだ。あっさりとカシマサマ本体へと行きついた。

「折角だし会いてぇなあ」

「では、僕がそう連絡しておきます」

ここで電話は途切れた。一成は、切るときに別れの挨拶をしないことが多い。それが俺に対してだけなのか、誰に対してもそうなのかはわからない。



数日後、一成から電話がかかってきた。

「弥琴さんに会ってくださるそうですよ、たまには、外の人間とも話したいと。明後日お暇ですか?」

 脳内で予定を思浮かべたが、明後日は

「何もないな」

「では、明後日の九時半に成田駅に居てください。僕が迎えに行きますので」

トントン拍子で予定が決まった。あっさりとしすぎていて、現実味に欠ける。

 カシマサマとはどのような人外なのか、不謹慎かもしれないが楽しみにしている自分が居た。


 当日、俺は電車で成田まで移動していた。平日の朝は通勤ラッシュで正直乗りたくないが、一成の迎えは決まって車だ。バイクが邪魔になるので、電車の方が良い。

東京駅で一度乗り換え、成田方面を目指す。このゴチャゴチャした感じは苦手だが、慣れで千葉方面行の電車に乗り換える。まだ人がパンパンだ。千葉駅に着く頃には、やっと人が減ってきた。

“まもなく、成田、成田。お出口は__”

 成田駅に着く頃には、余裕をもって座れる程度まで人が減っていた。一極集中とはまさにこのことだなと、感じざるを得ない。

 電車を降り、駅を出ると一成の所有する車が停車していた。大型車で、かなりの人数が乗れそうだ。

一成は俺を見つけると、

「おはようございます」

 と車窓を開け一礼した。俺も「おはよ」と返す。

「こんなところで立ち話も何ですので、乗ってください。助手席空けておきましたから」

「ありがとな」

 礼をして乗り込む。車の中は、一成が好きだという新しい木の香りが漂っている。芳香剤にも色々種類があるんだな、と感心していると車が走り出した。

それにしても、風景が基本的にずっと変わらない。早起きをした反動か、今非常に眠い。このまま寝てしまおうか__どうせ一成は着くまで俺を起こすことは無いだろう。目を閉じ、そのまま寝入った。

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