第四五話 新しい旅立ち
「行くのか、冬崎よ」
松葉杖をついたサガミが、声をかける。
「ええ、色々とお世話になりました」
頭を掻いて、照れ臭そうにするアカゲ。
「ホラ、アンタもちゃんと挨拶しなさいよ」
「うるさいなあ……」
「ホッホッホ、またひとつ、仲良くなったものじゃのう」
2人を見れば、以前より固い絆で結ばれた気がする。
そして、ツキの右眼は……光を失っていた。
「バッテリーは、道中で見つけたいと思います。そう上手くいくかは分かりませんが……」
あの戦闘でツキはバッテリーを使い果たしたのである。
超過稼働はおろか、視界に何も映らない。
ぐるぐると包帯を巻いて、ツキは右眼を覆う。
やはりこっちの方がツキっぽくてしっくり来る。
「それと、シンバシから伝言じゃ。……“本懐を遂げ、無事に戻り、式を挙げ給え”」
「だからしませんって……」
「何の話だ?」
ツキはよく分からなそうに尋ねる。
「───ウチが冬ちゃんのお嫁さんになるってこと」
「うわでた」
みなとが現れた。
「えぇ……お前……趣味悪いぞ……」
あからさまにドン引きするツキ。
みなとは改まって、アカゲに向かった。
「ウチな、冬ちゃんに見合う女になる」
「だから、待ってて欲しい」
晴れやかに、真剣なみなとの顔。
アカゲはそのまっすぐな眼を見て───微笑んだ。
「はわわ……」
アカゲの微笑みを喰らうとみなとは卒倒する。
「おい、大丈夫か!!突然どうした!!」
ツキが心配する。
そんな光景を見て、ユクエが歩いて来る。
真っ白な髪を揺らし、以前よりも前向きな顔になっていた。
「アカゲさん!忘れ物はありませんか?」
「ええ、まあ。多分大丈夫だと……」
「ありますよ、ほら」
ユクエは折り畳まれた紙を手渡した。
「これは……?」
アカゲは紙を開いていく。
……どこかの地図が描かれている。
「第三吸気口の見取り図です。地図も無しにどうやって進むつもりですか」
「おお、そんなものが!」
「いやあ、助かりますよ」
「道中、用心してくださいね。下界連合は、選ばれた精鋭しか第三吸気口に送りません」
「それに、上界潜入に成功したのはただの一度きり。それも完全とは呼べません……」
アカゲは気を引き締める。五ノ神の話は聞いていたからだ。
向こうを見ると、ミズホとツキが話している。
ミズホは涙目だ。
「ツキちゃん……。行っちゃうの……?」
「うん。元々こんなに長くいるつもりも無かったし」
「お兄ちゃんのこと……頼んだよ……!う、う……」
「うわーーーーん」
「ああ!ごめんごめん!泣かないで……」
ツキも大変そうだ。
……そういえば、ユクエの首の傷は、丁寧に縫合されていた。何だかサマになっている。
「ああ……これですか?」
「トヨ姉さんが、縫ってくれました」
ツキの傷も、ユノカワの手により予定より早く回復した。
「先代は左眼に、そしてアンタは首元に。……何だか箔がついた感じですね」
「そう言ってくれたのは、アカゲさんが初めてですよ。みんな僕に遠慮するんですもん」
浦山要塞大規模侵攻の後、ユクエは町の人々から認められた。
ハナビの最期の言葉を皆も聞いていたことから、そのまま統括署長の職を引き継ぐことになった。
「そういうタイプじゃないって、オレが勝手に思ってるだけですけどね」
「はは、当たりです」
くすくすと笑うアカゲとユクエ。この2人もすっかり仲良しだ。
あの戦闘から7日。壊滅の跡が未だに残る下界連合本部、浦山要塞さくら町。
町は一からスタートだが……何だか今までよりも、より良い未来に向かって行けそうな気がする。
そう思わなければやっていけないと思えばそれまでだが、何だかそんな気がするのである。
「食料なら幸い、当分は困りませんから」
ユクエが笑いながら指差す。
戦火の中にあり、無事だった炭化イノシシの亡骸……。もしかしたら、既に火は通っているかもしれないが……。
あれはどうやら相当長い年数、日持ちするらしい。
「おーい、アカゲ!そろそろ行くぞ!」
ツキの声が聞こえる。
「ちょっと待っててくださいね!今行きます!」
向こうに声をかけ、アカゲは最後に一言。
「また会いましょう。会うべき時に」
そう、ユクエに告げた。
「───はい、お待ちしてますよ」
───────────────────
これが、オレとツキが出会ってすぐのお話。
そう。人はオレ達を、こう呼びました。
“ニヒルな男”と“殺戮娘”……。って、どっちも微妙に違いませんかね?
いやあ、誰が言いふらしたんだか───。
あれ、もしかしてこのパート蛇足ですかね……。
いやまあ分かりますよ、さっきので終わるのが綺麗だってのはね。
ですがアンタが今読んでるのはBLAZIERです。
出会いも別れも旅立ちも、なかなか格好良く終わらないのが現実ってもんですよ。
だからこのお話があります。オレ達が、生きています。
BLAZIER第一部 おわり
BLAZIER第一部-β版 先仲ルイ @nemusuya
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