第六話 殲滅局長
「お戻りですか、局長」
ビジネス的で手頃な広さの書斎に、男が戻る。
「ああ。留守をご苦労」
窓から昼間の木漏れ日が差し込んで、観葉植物も健康そうに佇む。
「今、お茶をお淹れしますね」
「ああそうだ、先ほど夏山総理からお電話がありましたよ」
丸眼鏡の物腰柔らかな青年は、自らの電子端末を取り出して、机の上に置いた。
「メッセージを預かっています。再生しますね」
電子端末の画面が光って、音声が流れ始めた。
『こんにちは、サカダ君。元気かな』
『君に預けている部隊が下界で消息を経ったみたいだね』
サカダと呼ばれた往年の男は、音声の流れる電子端末を無言のまま見つめていた。
『“冬崎アカゲは冤罪”ね、上手いこと作った嘘じゃないの。本当にそうなればいいんだろうけどね───事実はそうじゃない。できればさ、このまま大人しくしててもらえないかな?』
『だってキミのやろうとしてること、ホラ、犯罪だから。犯罪をみすみす見逃すワケにはいかないし……でも、かといってキミを検挙するワケにもいかない』
丸眼鏡の男は、サカダの様子を見守っている。
『自分の立場を上手く利用して動いてるワケだね。いいことだ』
『でもね、キミの私設隊を動かすとこっちにログが残っちゃうし、ホラ、外野にあれこれ言われちゃうと面倒だよね』
『だから、これ以上の独断を許すことはできないんだ。……次に“私設隊を動かせば”、キミの椅子が更に落っこちちゃうから気をつけてね』
「……」
サカダは自分の右眼の瞼に手を触れて、そこに深い傷があることを確認した。
『僕の言ってること───“分かる”よね』
『それじゃ、よろしく頼むよ。五ノ神君も元気でね〜』
そこでメッセージは切れた。
五ノ神は丸眼鏡をかけ直して呟く。
「夏山総理のおっしゃる事……」
「どう思いますか?」
サカダは息を吸って白髪を揺らした。
「私設隊の派遣は中止する」
「……代わりに“V”を出す。───戦力の分散は避けたいところだが、冬崎アカゲの保護が最優先だ」
「やるならバレないようにやれ、と。それが総理のメッセージですか」
「……分かりました、彼を向かわせます。単独で大丈夫ですね?」
「報告に上がった“灰の娘”は、V単独で制圧可能だと判断する」
自分の電子端末を回収して、五ノ神はスーツのポケットにしまう。
「了解です」
「ああ、頼む」
「あの……それ程までに、重要なんでしょうか」
「その冬崎アカゲという男は」
サカダは威圧的なコートを揺らし、真剣な顔をする。
「そうだ」
「いわば彼は───全ての鍵を握る“最大の保険”だ」
「最大の、保険……」
「すまないが、たとえ君であっても、これ以上の情報は与えられない」
「だが、全てを理解する時がいずれ来るだろう。そう遠くない未来だ」
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