あの丘に桜が咲いたらキミと

第1話 キミはまだ、つぼみ

 桜と一番列車が撮れると聞いて、僕は早朝、丘を登った。花はまだ蕾。


 そこで彼女と出会った。佐倉ツボミ。高校二年生。


 丸い眼鏡がちょっとダサい。でも横顔がすごく綺麗で、シャッターを切る時の目が美しい。


 僕は一番列車より、キミの写真を撮りたかった。


 佐倉先輩の髪はいつもボサボサで、下手くそな手編みの白いマフラーを巻いてる。自分で編んだんだそうだ。


「キミも撮り鉄? 写真部に入らへん?」


 風に絡まる長い黒髪をかきあげて、先輩はトンネルに向けてカメラを構えていた。


「ウチが気にいる写真撮れたら、ヌード撮らしてあげてもええよ?」


 佐倉先輩はニヤアと笑った。


「気にいる写真て?」


「鉄道やね」


 トンネルから轟音が聞こえ、一番列車が飛び出してきた。瞬間、先輩がシャッターを切った。僕も切る。


 カシャカシャという音が混じって聞こえ、僕らは 一番列車が走り抜ける間、無言でシャッターを切り続けた。


 先輩は僕からカメラを取り上げ、写真を確かめていた。


「ヘタクソ。もっと練習せなウチの裸は見られへん」


「どういうのが、いい写真なんですか?」


 僕はムッとして聞いた。


「知りたかったら、写真部に入りぃや」


 先輩はにっこりした。


 僕はその日、写真部に入部届を出した。

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