ボクは人知れずキミを救う者だ 004

 ボクはたぶん、変な夢でも見たんだろうな。


 それとも頭がちょっと変なのか……。


 それからずっと、恋人いない歴=年齢を、更新中。


 ある日、テレビをつけたら、変な病気が流行ってた。それで世間は大騒ぎだった。


 そんなことってあるんだな。


 ほんとに人生っていろいろなことが起きるもんだよ。


 でもボクはあんまり心配はしてなかったんだ。だってほら。まあ……なんとかなるんじゃないか?


 そう思ってたら、案の定、しばらくしてからボクが通勤していたバス通りの近所の人から、その病気を治す抗体が見つかったって、それはそれで大騒ぎになっていた。


 奇跡ってあるもんなんだなあ。不思議だけど。


 その、たった一人の持っていた抗体から、特効薬が作られて、みんなまた普段通りの平穏無事な毎日に戻れた。


 世界中の人が助かったんだ。


 奇跡だ! 奇跡……。


 みんなとても喜んでいたようだった。


 ボクは相変わらず、いつものバスで仕事へいく。


 バス停ではひとり。バスの中でも、ひとりだ。


 それでも、誰もいない後ろの席を振り返る時に、ボクは一瞬思う。


 好きだよ。


 誰かわからない、もう顔も思い出せない誰かに、ボクは心の中でだけ言うんだけど。


 その話はもう、誰にも秘密なんだよ。



――完――

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