ボクは人知れずキミを救う者だ 002

 それは、ある朝のバス停でのことだった。


 ボクはいつものように、仕事に行くためにバスを待っていた。


 彼女もそこでバスを待っていた。


 なんてことない、毎朝の光景だ。


「おはよう」


 にこにこして、彼女はボクに挨拶をした。


 会えて嬉しい。彼女は特別な人だ。他の誰とも違う。


 一目会った時から感じてた。彼女は他の人とは違う。ボクの仲間だ。


 なぜそう思うのか、自分でもわからないけど、たぶん彼女もそう思ってる。


 そばにいると、いつもホッとして、彼女のとなりで吸う息までが甘い。


「今日も会えたね」


 嬉しそうな笑顔で、彼女はひっそりとボクにそう言った。


「今日がなんの日か知ってる?」


「知らない。何かの日なんだっけ?」


 ボクはバス停まで歩く間、音楽を聴いていたイヤフォンを外しながら、彼女に訊いた。


「今日は残念だけど、あなたと会える最後の日なの。ごめんね。私、あなたのこと好きだったよ」


 悲しそうな笑顔で、彼女はボクにそう言った。


 なんの話。


 ボクはちょっと絶望しながら、その話を聞いていた。


「信じてもらえるか分からないけど、私はこの話をあなたに伝えにきたの。私が小学生のときに転校生が来て、私その子とすぐに仲良しになったの。でももうその子の顔も憶えていない。憶えているのはこの話だけなの。一度しか言えないから聞いて」


 そして彼女は真剣な顔で、ボクにその話を伝えた。


 これから来るバスは、事故にあう。それでもボクはそのバスに乗らないといけない。


 なぜならボクは奇跡を起こす力を持っていて、その事故をなかったことにできる。


 バスが突っ込むのは歩道を歩いている、登校中の小学生の子の列よ。たぶん大勢死んでしまうの。


 それはただの悲しい事故で、しょうがないのかもしれない。でも防がなくてはいけないの。


 そこで死ぬはずの子たちの中に、特別な病気の抗体を持った子がいる。その子のおかげで将来、大勢が救われることになるわ。


 あなたはチカラを使えば消えてしまうと思う。でも。


 みんなを救ってくれる?


 私にその予言を伝えた転校生は、消えてしまったの。それが、その子の役目だったんだろうね。私にその話を伝えるのが。


 私……この話を誰にも言ったことがない。あなただと思うから話すの。私がずっと探してた誰かは、あなたよね?


 ボクは……ボクは彼女が怖くなった。

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