Notebook: page 002

 君はきっと何も憶えていないだろう。と、ノートの文字は親しげに語りかける友人のようにつづられていた。筆跡にも見覚えはない。

 それを読むしかない私は、ただ読み進めた。

 そこには、このようなストーリーが記されていた。


 君、つまり私だろうか。君は、とある製薬会社の新薬の臨床実験に応募した被験者だった。その薬によって、君の持病は治ったのだが、一ヶ月ほどして、驚くべき副作用が現れた。


 毎日、三時頃になると、一切の記憶を失ってしまうのだ。自分の名や素性すじょう、ほんの一時間前まで、どこでどうして過ごしてきたのか、全て忘れてしまう。

 手元に残るのは一冊のノートと手荷物だけ。ノートにしるされた文字が、自分は何者で、これからどうすればよいのかを教えてくれる。

 生活費のことは心配しなくていいよと、ノートは語っていた。製薬会社からの示談金じだんきんで、君は一生食うに困らない程度の金を持っている。

 通帳やキャッシュカードは手元のカバンに入ってるよ。

 行って確かめてごらん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る