昨日を忘れ去る私と、黒いノートブックの物語

Notebook: page 001

 ある日の午後、カフェでノートを開いていた。

 ふと気づくと、ペンが止まり、テーブルのはしで半分ほど残ったカフェ・オレが冷めきっている。

 どれくらい、ぼうっとしていたのだろうか。意識がぼんやりとして、まるで寝坊した朝のような気怠けだるさが頭全体を包んでいた。

 静かに、大きくため息をつき、目頭めがしらを揉もんで、私は気づいた。

 自分が何も憶えていないということを。


 カチカチ、ボーンボーンと、カフェの大きな柱時計が鳴り始めた。

 三時。

 午後三時だろう。

 窓から見える戸外こがいはまだ明るく、いい天気だ。

 もう一度、大きく息をついてから、私は再び自分の頭の中を探ってみた。

 しかしそこは空洞だった。自分の名も、なぜここにいるのかも、どこの誰であり何をするのかも、分からない。

 ただ、目の前に、一冊のノートがあった。開いたページには、こう書かれていた。

 やあ、おはよう、と。

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