第14話 血塗られた兄妹

久乃の胸で穏やかな寝息を立てて眠る姫の姿に久乃の手が無意識に伸ばされた。


―――その細い首に


そっと手をかける―――――


その行為は無意識だった·····。


「一思に、やっちゃいなよ」


背後に現れた一人の男。


音もなく風のように現れ久乃の腰を抱く。その手に人の熱はなく·····。


「·····兄·····様·····」


ひょっこりと久乃の肩越しから顔を覗かせ、にこやかに微笑むも眼の奥に潜む、冷淡な冷たさが滲み出ている。


その眼の奥に広がる漆黒の闇。


そんな漆黒の眼が穏やかに眠る姫を見つめ久乃を追い詰める。


「あれぇ·····ねぇ殺さないの?ひーは弱虫だねぇ」


ケラケラと楽しそうに笑い徐々に威圧され呼吸さえも聞こえる距離に身震いし、ぎゅっと姫を抱き締めた。


肩に熱を感じない掌の感触。


じんわりと伝わる冷たい体温が恐怖を煽った。


「千景様が、後少しで目覚める。ひーの役目も、それまでだね。なーにも出来ない弱虫の、ひーは、このまま成り行きに任せて隠れて終わるの待てばいいよ―――何もせずに·····そう·····あの時みたいにさ」


耳元で優しく響く声―――――。


でも、どこか寂しげで冷たい·····冷たくなってしまった·····この人を·····優しかった兄を変えたのは紛れもない自分だ。


「ねぇ知ってる?ずーっと前から、こんな計画が進行していたってこーと」


するりと久乃から身を離し眠る姫の傍らで何を考えているのか掴めない表情をみせる兄の姿。


「天下を取る戦は、既に始まっているんだよ。その為には影虎の血とこの子の血が重要不可欠!二人の血を混ぜ合わせ、この世に絶対的な鬼の世界を築き作上げる。人は皆、鬼に姿を変え、抗う者には安らかなる死を与え、救いを求める者には祝福を。この子は存在を消し僕は千景姫の血を得て伴侶となり世を治める。どう?素晴らしい計画でしょ」


(―――狂っている。この人は·····壊れてしまった)


「兄様!あの御方が·····千景姫が、糸も容易く兄様の計画に従うと本当に信じておられるのか!」


(そんな可笑しな話があるものか!千景姫が兄様を血の伴侶になど望むわけがない)


「·····違う·····違う!!千景姫が望むのは、兄様ではない。あの御方が本当に欲しいと願っておられる御方は今も昔も、ただ一人。あの御方だけだ!!」


千鶴姫を、もう一度、強く抱き締め

そっと横たえ刀を握る。


真っ直ぐ兄、佐近サコンを見据える眼差しに迷いはない――――――。


右近、佐近そして久乃は三兄妹であった。血縁関係こそ、久乃とはないものの、幼き時より友に暮らし生きてきた言わば同志だ。


そんな身寄りのない久乃達を救いの手を差し伸べ育ててくれたのが姫の御父上であり一国一城の主、今は亡き陰の国の長 夜雲様ヤクモと、その奥方の椿様ツバキだった。


戦乱の世に生きる為の術を一から叩き込まれ、生きる為に人の命を喰って戦い抜いてこそが亡き者達へのハナムケとなる。


世は戦国時代――――弱き者が死に強者、のみが生き抜き天下統一を目指し命を賭けて行う戦なり。


――――弱肉強食―――――


『人の命を奪う事を罪だと思うな!己の命あっての戦だ。誰の命が落ちようと、けして俯くな!前をみよ!そなたの信じた守るべき者の為に忠誠を貫け』


今も胸に深く残る御館様の言霊


けして忘れまいと魂に刻んだ幼き日の兄妹の絆―――――――。


だか今、目の前に居るのは別人となり変わってしまった兄の姿。


鬼に魂を奪われ御館様を裏切り死に追い詰めた【大罪人】千景様に手を貸し裏で糸を引いていた裏切り者―――――――。


兄を救えるのは、ただ一人――――。


自分だけだと握った刀に力を込めた。


「ふーん。君ごときが僕とやりあう気?そんなに死にたいだ?愚か者だね」


ゾクリッ息が詰まる程の緊迫感。


双方の刀の切っ先から火花なが散った。


(守らなければならない。この命が尽きようとも·····私が兄を止めてみせる!)


「兄様!!その命で罪を償って頂きます」


刀と刀の激しい打ち合い。


一瞬の隙も迷いも許されない命賭けた戦い。例え、それが大切な家族であろうとも――逃れる術はない。










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