第13話 もう1人の姫
姫の中に眠る·····もう一人の姫
そう全ての元凶―――――
今は亡き黄泉の国の住人。
千景姫は
久乃は、その時より·····この二人の姫君達を、誰よりも近く誰よりも傍で支え共に生きてきた。
双子は呪われし災いの元凶とされ、どちらか片方が必ず命を落とさねば国は滅び、未来永劫、不幸に苛まれると言い伝えられていた。
何故、千鶴姫が選ばれ千景姫だけが、命を落とさねばならなかったのか?
それは双子として生まれながら持って生まれし長の器か否か?
そして眼の色で決まるのだ。
千鶴姫は生まれながらにして、鬼の血脈を色濃く表す証【紅き眼】を持ち、長としての資質を強く持って生まれた。
しかし千景姫の眼には紅き証が表れておらず長たる資質の欠片すら感じなかったという―――――――。
しかし、その証が表れる期限は十歳までとされ、その期間内に鬼の血筋を色濃く受け継ぐ者以外は鬼の血筋を引く者で、あろうとも器でなければ容赦なく命を絶たねばならなかった。
鬼として生まれ、鬼の長となり未来永劫、その血筋を絶さず伝え生きる。
鬼が多ければ多いという問題ではなく、ただ、ただ強い血の力が求められ振るいに掛けられた。
――――二人の幼き命は、こうして運命を切り裂かれ大人達によって狂わされていった·····。
千鶴姫も、けして幸せな幼少期とは言えない暮らしの中で育ち、鬼の存在を知り。幼い時から、その過酷な宿命と運命に向き合い厳しく育てられた。
泣くことも笑うことも自我を出すことさえも固く禁じられ·····。
姫は籠の中の鳥だった。
千鶴姫は双子の姉の存在を知らない。
姫様方が十歳になった日·····
千景姫は誰の眼にも触れられることなく、たった独り暗い闇の中、命を絶たれ紅き涙を流された。
「この身が滅びようと·····永遠に忘れまい。この積年の怨み何時か·····何時か必ず!!」
永遠に千鶴姫と会う事を許されず、御館様にも奥方様にも触れられず、言葉すら交わすことなく、その短い生涯に幕を閉じた。
その幼き姿を抱き締め、土へ葬ったのは何を隠そう久乃ただ一人であった。
涙を流し心を痛め冷たくなった千景姫の体を抱き締めた。
「千景姫·····どうか、どうか安らかに·····お眠りください。そして何時か、また逢う日まで私が、あなたの妹·····千鶴姫を守ります」
人知れず静な森の中。
嗚咽を漏らし涙に頬を染め、手を合わせ祈りを捧げた。
忘れぬようにと
後に数年が立ち日のある夜――――。
満月の夜の闇が、千鶴姫を包み、深い深い眠りの中、姫は夢を見たそうだ。
夢の中で千鶴姫と千景姫は出逢い、魂が共鳴したのだと言う。
夢の中で姫の体と体が交わり一つに重なりあった時。強い光の波に呑まれ、その瞬間、同じ顔を持つ姫の姿は消えていたそうだ―――――――。
姫が語った数日後
久乃は全てを悟った。
千鶴姫の中に、千景姫の姿が見え、千景姫の企みの渦に皆が呑まれ始めるのではないかと不安が胸を掠めた。
積年の憎しみと悲しみが入り交じり黄泉の国より舞い戻りし千景姫の姿。
久乃は千景姫にも千鶴姫にも恩義があり、双方に忠誠を立て抗う事を諦め、運命に身を任せることを決めた。
――――そして今―――――
二人の姫の運命は動き始めた。
抗えない囚われの身を焦がす程の怒涛の運命の幕が上がったのだ。
千景姫は、真っ直ぐ久乃を見つめる。
昔のままの強き気高き姿――――。
姫の眼には迷いも弱さもなく、眼の奥には怪しくギラリと光る紅の色が見えた。
(眼の奥の濃さが増している·····時間がない)
不安が久乃の胸を締め付ける。
だか一方で、己が意思を明確に表し言葉を紡ぐ姿を誇らしく、勇ましいとすら思え、その姿に安堵している自分もいた。
十歳で命を奪われ大人達に悪戯に苛まれた悲しき宿命と言う名の運命に千景姫は何を思う―――――――。
暗闇に囚われ命を犠牲に黄泉の国より舞い戻りし双子の片割れ―――――。
(·····なんと、おぞましい·····殺気に満ちた気·····。千景姫の力が強くなりだしている。一時は力も弱まり眠りについておられたが、確実に刻一刻と千鶴姫の意識が乗っ取られていく·····後どれほど千鶴姫の傍にいれるだろうか。千鶴姫は優しすぎる。このまま千景姫に呑み込まれた方が千鶴姫は楽に·····苦しまずに済むかもしれない·····でも、影虎様は、どうなる?―――影虎様が好いておられるのは千鶴姫だ·····千景姫の存在は脅威でしかない―――――)
ギュッと唇を噛み締め跪く。
「千景姫様の仰せのままに·····私は、あなた様に作られし傀儡。主の意思に従うのみ。この命、あなた様の為なら捨てる覚悟は、とうに出来ております」
(どうにかして姫の意識を繋ぎ止めておかねば·····影虎様の御身にも危険が迫るやもしれん·····しかし、どうすれば良いのだ。何か良い策は·····)
久乃は必死に頭を働かせる。
(考えろ!考えるのだ!姫君達にとって最善の策はないものか·····御二人が助かる最善策は――――)
ふと脳裏に強く影虎の姿が浮かんだ。
(千景姫と結託している者が、いるとするならば·····いつからだ·····いつから·····千鶴姫の中に千景姫がいると知っていた?千景姫の存在は知られてはならない我一族·····いや国の秘密。影虎様を、も知りはすまい。どこから漏れた?尚且つ千景姫は私と影虎様の密通をも知っておられた。――もしや――この村に密偵がいると言うことか?)
冷たい汗が背筋を流れ沈黙が静な夜の幕を開けた。
「嵐が―――くるようじゃ。妾は暫し眠りにつく。千鶴との残り短し時を存分に謳歌せよ。久乃―――そなたの運命は妾の掌中にあることを忘れるでないぞ」
千景姫は久乃へ掌を伸ばし、その細く、か細い体を投げ出した――――――。
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