第8話 始まり
村を襲う者達に、恐れることなく一人の勇気ある男が声を上げた――――。
男の名は
そして喜八の背に隠れるように子が一人。父の着物の裾を握り締め、身を震わせながらも敵を真っ直ぐ見つめていた。名は
「鬼なんぞ、おらん!姫なんぞ隠しともおらん。皆、怖がっとる。じゃから早々に立ち去ってくだされ」
喜八の言葉に反応を見せた兵士が一人。
そやつは他の者とは違い一際、目立つ大きな槍を背にしていた。一歩また一歩ジリジリと喜八との距離をつめると槍を喜八の首元へ突き立てた―――。
喜八の身体はビクッと大きく身動ぎ、ツツーッと赤い雫が一筋、首筋へ流れた。
その光景を目の当たりにした寛太は大きな眼を見開き、喜八の背後から怒りの叫び上げ突進した―――――。
「おっとうをいじめな!!」
「寛太!だめだ!さがれー――!!」
寛太は迷うことなく本能のまま怒りを槍の男へ向け殴りかかった――――――。
―――喜八の腕が寛太へ伸ばされる―――
誰もが息を飲んだ、次の瞬間·····
鋭い刃先が寛太、目掛け容赦なく振り下ろされた―――――――。
喜八は寛太を守ろうと必死に自らの身を挺して庇おうとするも·····
――運命とはなんと残酷で醜いものか――
槍の速さに敵う訳もなく
寛太の体は大きく弾き飛ばさ
パサーーーーーッ
紅い花弁が、辺りを散らす
寛太の身体は地面へと激しく、叩きつけられ父へと力なく伸ばされた腕は虚しく空をきり力なく笑う寛太の眼から一筋の涙が零れ落ちた。
喜八は寛太を抱え傷口に手を宛がうも出血は酷く、衣はみるみるうちに赤く染まっていく――――――
「しっかりするんじゃ!寛太!」
「おっ·····と·····う·····おら·····おら·····」
溢れ出た血は地面に広がり大きな水溜まりとなり二人の姿を映し出す。
強く強く握り締められた父の手とは裏腹に力なく握り返された小さき掌の温もり。
やがて、ゆっくりと寛太の瞼は閉じ眠るように穏やかな表情を浮かべ深い眠りに堕ちていった。
まだ身体は温いのに魂だけが消えていく····
「寛太ーーーーーー!!」
喜八の悲鳴にも似た叫びが闇夜に木霊し、月明かりが残酷なまでに美しく二人を照らす―――――――。
男は、槍先から滴り落ちる紅の雫を拭うことなく
「刃向かう者は子であろうと容赦なく殺す!!これは見せしめぞ!!」
高らかに吼える。
無惨にも命を奪われた息子を喜八は抱き抱え力いっぱい抱き締め、涙を拭い訴えた。
「·····あんたが言う鬼なんぞ知らん·····この子が何をしたと言うんじゃ·····。まだ五つになったばかりじゃった。父のようになりたいといつも家の手伝いをし、妹思いの優しい自慢の息子だったんだ·····。あんたが言う鬼とはなんだ?本当に鬼がおるなら、それは今おらの目の前におる、あんたが―――あんたがおらには鬼に見える!」
槍の男は愉快に笑い
目を細め槍から滴る赤き雫に自ら舌先を這わせた。
ジュルリッと不気味な音が闇夜に響く。
「はっはははっ。拙者が鬼に見えると申すか?なんと愉快な!」
槍を天へかざし男は高らかに叫ぶ
「そなたの勇気に敬意を表し我が主の名と名を教えて遣わす暁ノ
橘 右近と名乗った槍の男の言葉に、その場にいた村人達は皆ゴクリと生唾をのみ込だ。
なにせ久しく聞いていなかった畏れ多い名。驚くのも無理はない。
【白伽影虎】
この男こそ人の皮を被りし強欲の鬼
富も名誉も名声も統べて支柱に納めた
この国、唯一の·····絶対的、存在。
欲しいものは力ずくで手に入れ
逆らう者は容赦なく殺す
人は彼を【鬼】に一番近き存在とし称え
従う者には衣食住を与え、成果を成し遂げた者には褒美を取らす。
弱気者が虐げられ命を落とし強者のみが生きて行ける残酷な時代――――――
弱肉強食の世を造りし
【蒼き炎の王】
そんな異名を持ち。人ならぬ力を持つとされる天より恐れられし者。
右近と名乗る槍の男は再び喜八へ問い掛ける。
「もう一度、聞く·····この村に【鬼姫】はおらぬか?」
鋭い眼が喜八を睨み場の空気が冷え、再びの緊張が訪れようとしていた――――。
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