第7話 華月郷

深い森の奥にある此処、華月郷は小さい村である―――――。


木々に囲まれた村は、山々から吹きぬける清らかな風が舞い。民の心を癒す。


山からの恵みである湧き水は、民の生活を支え、農作物を豊富に育てる。


皆けして、裕福とはいえぬ暮らしの中でさえ、各々が生きる意味を持ち、夢を持ち、何にも縛られることなく自由気ままに暮らしていた。


男と女が出逢い、愛を育み、そしてやがて天からの恵みである宝を授かる―――。


やがて産まれし子は、心豊かに育ち

子供は皆、優しく人の痛みと、愛することの尊さを覚え、弱気を助け、強き者へと立ち向かう勇気を学ぶ。


嘘を嫌い、お天道様に恥じることなく真っ当に生きる。


どんなに間抜けであろうとも。


どんなに馬鹿だと罵られようとも生抜いてこその時代だ。生きていてこそ人生は儚く美しいと言える―――――。


春には薄紅色の桜が咲き

夏には藤色の紫陽花が梅雨を知らせ

秋には青色が眩いりんどうが紅葉を彩り

冬には山茶花が美しく燃えるような赤色で雪景色を飾る。


四季折々、色鮮やかに咲き誇り儚くも美しく潔い――――。


風光明媚な村。


そんな美しかった村が


皆が愛した村が·····今、終りを迎えようとしていた―――――。


人々は迷い·····逃げ惑い·····恐怖に身を沈め自我が崩れだす――――


土足で踏みにじられていく田畑·····


何十人もの兵士達が一斉に押し寄せる。

小さな村など直ぐに占領される。


「刃向かうものは容赦なく殺せ!」


「命が惜しくば鬼の姫を差し出せ!」


恐ろしい形相の兵士達が一斉に騒ぎ皆、口々に【鬼】【姫】と口走りながら刀を鳴らす。


その刀の何れもが赤黒く変色し、刃こぼれし醜い光を放っていた。


――長い長い夜が幕を開ける――





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る