第4話 おばあちゃんの御伽噺

むかしむかし。 あるところに花のように美しく、珍しい紅の瞳を持つ姫様がいたそうな――――


姫様は心優しき、お方で身分など関係なく村人達に接し、けして多くない食物を分け隔てなく与えておられた。


姫様には父上様や母上様がおらず。


姫様は数少ない数人の家臣を引き連れて、人里離れた、深い森の奥にある小さな村。華月郷カゲツキョウに、やって来られた。突如として現れた、紅い甲冑を身に纏いし兵士達。その威圧感に、村人達は皆、恐怖し、子供は泣き出し、言い様のない不安に戸惑う村人も多かった。


カゴを下ろしてください」


籠の中なら、鈴の音のように凜とした声が響き、辺りはシンッと静まり返った。


家臣の一人が籠へ歩み寄り二言三言、交わした後、籠は降ろされた。


暫くすると、ゆるりと籠扉が開き、中から姿を現したのは淡い藤色の着物を身に纏い、絹糸のように艶やかで長い黒髪に陶器のように白い肌。そして村人達が目を奪われたのが紅色の妖しく光る2つの眼―――

異質なまでに美しく身震いするほどの色香。少女とは思えぬ立ち振舞いに村人達は皆、少女の姿をマトいし天からの御使ミツカい。――天女様――だと錯覚を起こすほどに。


皆から深い、ため息が漏れた。


「·····なんと美しい·····。まるで天女様のようじゃ·····」


村人達は皆、各々が膝をつき頭を下げた。その日を境に、少女は華月郷の姫巫女として村人達から、崇め奉られることとなる。


しかし姫には人知れず抱えた深い悲しみと、隠し通さねばならない秘密があった。


姫は夜な夜な枕を濡らし―――――


ひっそりと我が呪われし運命サダメに抗い足掻き、懸命に生きようとしていたのだ·····。


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