第2話 鬼の存在
そして僕は、はじめて人の心に潜む【鬼】の存在を信じ恐怖し、怯えたのだ。
数日後、母を変えた原因が、父であることを知った―――。
誰も僕に、事の真相を教えてくれなかったが、子供ながらに二人の様子から察していた。母と僕以外に父に守りたいと思う大切な人が出来てしまったのだと―――幼いながらも理解した。
積み上げてきた大切だと思っていた物全てが作り物だったみたいに簡単に崩れ、散っていく。
そして母が【鬼】に心を支配されてからというもの、仲の良かった僕達、家族は壊れていった―――。
毎日のように繰り返される喧嘩。
汚い言葉が飛び交い
あんなに仲の良かった父と母は憎しみ。お互いを嫌い罵りあっている。
僕は二人から距離を取られ、まるで必要の失くなった邪魔者のように扱われた。
「子供なんて産まなきゃ良かった」
そんな母からの言葉が僕の心に一つの【鬼】を植え付けた。
「あなたさえ生まなきゃ私は幸せだったのに·····あの人も離れて行かなかったのに」
母からの悪態は日に日に増すばかり·····
「―――ごめんね。母さん泣かないで」
母は壊れてしまった·····暴言を吐き子供のように泣きわめき、そして·····最後には必ず、僕を抱き締める――――――。
「·····ごめ····んね·····。ごめん·····なさい。母さんを見捨て·····ない·····でっ·····っ」
泣いて僕に縋る·····救いを求めるみたいに。僕は母を寝かせつけ子供部屋の隅っこで毛布をかぶり耳を塞ぐ·····全てから逃げ出したかった。
――消えてしまいたかった――
毎日のように繰り返えされ、終わることのない辛い日々が―――現実がループして僕の心に暗い影を落とした。深い哀しみと強い怒りに侵食されていく―――――。
――――もう止めてよ!!
――――聞きたくない!!
心が、いつしか悲鳴をあげた―――。
―――どんなに叫んでも――――
―――その声は届かない――――
母さんにも父さんにも
みんな消えちゃえばいいんだ!!
――― いなくなってしまえ!!―――
そう心の中で強く強く叫んだ!!
その瞬間
パリーーーーーーーーン
張りつめていた心の硝子が粉々に砕け散った。目の前の世界が一瞬にして真っ赤に染まり――ドクンッドクンッ――と激しくなる鼓動。
その音が次第に広がり僕の心を大きく、のみ込んだ。
瞳から溢れ出る
―――紅い雫―――
拭っても拭っても止まることなく溢れ出る紅い雫は、やがて足元に大きな水溜まりを作りだし僕は、その大きな紅い雫の中へ堕ちるように身を沈めた。
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