茜雲の泣く頃に

cherryblossom

第1話 崩れゆく家族

これは永遠に忘れる事のない


僕と彼女の物語。


あの夏の記憶


優希ユウキ早くしなさい!」


母の不機嫌な声に腹の底から嫌悪感が芽生えた。


「ぐずぐずしてるとおいてくから!」


頭ごなしにヒステリックなカナキリ声で怒鳴られる。――――毎度のことながら吐き気と頭痛に眩暈がした。


「ごめん·····母さん、直ぐ行くから」


僕は怒りを抑えながらできるだけ優しく言葉を紡ぐ。そうしないと面倒なことになりかねないからだ。


今日、僕と母さんは住み慣れた家を放れる。そして母の古里へ移り住むのだ。


事の発端は数ヶ月前に遡る。


学校から帰って来た僕は母のただならぬ雰囲気に息をのんだ。


真っ青な顔。眼孔ガンコウ鋭く、怒りや哀しみを全身に溢れ出させた母の姿。


そのあまりの変貌振りに僕は、その場に凍りつき言葉を無くす。―――そして僕の脳裏に【鬼】の文字が浮かんだ。


目の奥に潜む。恐ろしく荒々しい黒々と光る何かを見てしまったからだ。


当日、僕は14歳。


そう·····子供だった。


母は、いつも優しく美しい人だった。


それなのに何が母を鬼に変えてしまったのだろう?本当に鬼が存在しているなんて、信じてはない。人間の弱気心が作り出した虚像だと頭では分かっていた。でも人は、時に心に鬼を宿すもなのだと、祖母が話してくれた、お伽話を思い出し、その時の僕は半ば強引に、そうであってほしいと望んでいた。

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