第8話

翌週の授業の日、僕は彼女に手紙を渡す心持でいた。しかし、果たして手紙を渡すことが正解なのか自信がなかった。僕が書いた手紙には、オブラートに包んだとはいえ、少なからず彼女に対する好意が滲み出てしまっていた。そんなものを渡して、彼女を困惑させてはしまわないだろうか。僕のせいで彼女の勉強に支障が出たり、迷惑をかけてしまうのは絶対に嫌だった。


授業中も手紙を渡すか否かをずっと悩み続けた。授業終了の鐘がなった時、僕は決心した。


「ちょっと話があるんだけどいい?」

「うん。なに?」

「最近、結構一緒に帰ったりしてるじゃん?」

「うん。」

「それをもうやめようと思う。ごめん。」

「そうなんだ。わかった。」

「教室にいるときは、これまで通りたくさん話そう!」

「うん。」


僕は手紙を渡さないことを選んだ。自分が楽になりたいがために、彼女に迷惑をかけてはいけないから。


一緒に帰るのをやめるといった時の彼女の瞳は、悲しんでいるようで、なんとも思っていないようでもあった。できるだけ明るく軽い雰囲気になるように努めたので、彼女もそれに合わせたのかもしれないが、本心を読み取ることはできなかった。


それから僕と彼女が一緒に帰ることはなくなった。はずだった…


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