第7話

僕の告白を聞いて、塾長は面食らっていた。僕が塾長の立場でも、きっと同じように困ったと思う。本当に申し訳ないことをしてしまった。でも、塾長はそんな僕の告白を真剣に受け止め、温かい言葉をかけてくれた。


「好きになるのに年齢は関係ない。だけど、今すぐ一緒になるのは難しいと思う。」

「はい。わかってます。僕も絶対にダメだってわかってたんです。なのに…」


僕は、問答無用でクビになってもおかしくなかった。ただでさえ、大人が子供を性の対象とする卑劣な犯罪が増えている昨今だ。コンプライアンスも強化されている中、先生が生徒に好意を持っているという事実だけで、切り捨てる理由になる。


「先生には辞めてほしくない。」

「僕も辞めたくないです。だから、もう一緒に帰ったりはしないようにします。」 


僕の働きぶりを評価してくれて、辞めてほしくないと言ってくれた塾長を裏切りたくなかった。僕は、もう彼女と一緒に帰らないことを約束し、これまで通り授業は担当させてもらえることになった。塾を辞めなくて済んだだけでなく、これまで通り彼女に勉強を教えられることになったのは、これ以上ない幸せだ。幸せなはずなのに。僕の胸は激しく痛んだ。心が壊れてしまいそうだった。(これで完全に彼女への想いに蓋をしないといけない。)家に着いてからも呆然として、頭の中を絶望が支配していた。


自分の中に留めておくことができないほどの苦しみを感じていたにもかかわらず、僕は誰にも相談することができなかった。誰かに打ち明けたら、その人の価値観に従って否定や批判をされるのがオチだ。ネットに自分を肯定してくれる言葉を求めたりもした。でも、当然ながらネット上に転がっている言葉の多くが、子どもに恋愛感情を抱くことに対して否定的なものだった。


行き場をなくした僕の気持ちはどこに吐き出せばいいのだろう。僕は彼女に手紙を書くことにした。もう一緒に帰れないということを伝えるためだった。いや、それは名目に過ぎなかったかもしれない。本当は自分の心が壊れてしまう前に気持ちを書き出さずにはいられなかったのだ。


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